「だが、俺は、それでも蛍(おまえ)が好きだぞ」

「氷河って、見かけを裏切って芯から日本人だね」

氷河の決死の覚悟の告白も慰めも、

「日本人はね、桜だの蛍だの、一瞬だけ美しく輝いて、潔く死んでいくものが好きなんだよ」

自分の悲しみに手一杯の瞬には通じなかった。

「そうだね、僕も桜か蛍だったらよかった。信じるもののために闘って、そのまま死んでしまえたら、とても美しかったろうし、こんなに辛くもなかったろうね」

「…………」

自分が誰かに愛されていることにすら気付かないほど、瞬は辛いのだ。
他人の命の上に成り立っている自分の生が。

「生きたいと思っていたはずだ、死んでいった者たちは!」

氷河は、少しばかり腹が立ってきた。
氷河も、多くの敵の命の上に今を生きている。
そして、多くの愛する者たちを失ったのだ。

「もっと生きて、美味いものを食って、いろんな楽しみを楽しんで、辛いことも悲しいことも目一杯味わって、誰かを好きになって、その人を幸せにして、それから死んだって遅くなどないんだからな!」

そのことに、今になって思い至ったのか、氷河の怒声の下で、瞬は静かに恥じ入るように睫を伏せた。
「そうだね……ごめんなさい、氷河」

「…………」

そうではない。
氷河は、瞬を責めるつもりは毛頭なかった。
ただ、氷河自身がそういうふうに生きたくて、死んだ者たちにもそういうふうに生き続けてほしかったと思い、瞬にもそういうふうに生きていてほしいだけなのだ。






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