プライドを捨てることのできない苦さを一輝が自覚してから数日後のことだった。

星の子学園に出掛けていた星矢たちと一緒に城戸邸に戻ってきた氷河の異様な風体に、一輝がまたしても呆れ返ることになったのである。

その日は彼岸の中日だった。
星の子学園では、『メイキング 彼岸まんじゅう』という訳のわからないイベントが催されることになっていた。

「みんなでさー、うさぎまんじゅう作ってさー、星の子学園の庭に作った即席の石の竈で蒸かすんだv」
という星矢の説明を聞いて、一輝は同道を断ったのだが。 

そのイベントから帰ってきた氷河の髪が、綺麗に右側だけ超ショートのボブカットになっていたのだ。
ボブカットといえばまだ聞こえがいいが、ようするにおかっぱである。


「まあ、まんじゅうだけ蒸かして食うのも何だからって、もう一つの竈でカレーを作ってたんだよな、俺たち。で、俺が紫龍にイモやニンジンを切らせてたんだ。エクスカリバーで」

「なに?」
「だからー、俺がイモとかニンジンとか空中に放り投げると、紫龍がそれをすぱすぱすぱーんとシュラ仕込みのエクスカリバーでぶった切るわけさ」

「…………」
今頃、シュラはあの世で泣いていることだろう。
一輝は二の句が継げなかった。

「で、ついでに氷河の髪も切ってやったというわけか」

一輝はこの上ないほど脱力していた。
が、星矢はノンキに肩をすくめるだけである。

「紫龍の芸を近くで見物してた星の子学園のガキが一人、落ちてたジャガイモの皮で滑って転びそうになってさあ、それを瞬が助けようとして、その瞬を氷河が庇った」

「…………」

一輝は、深い深い溜め息をついた。

氷河だけがおかしいのではない。
どうやらこの世には、一輝が常識と思っている常識の通じない人間が五万といるようだった。

無論、いちばんおかしいのは今の氷河の風体ではあったが。

どう言ったらいいのだろう。
正面から見て左側が氷河、右側がシドなのである。
まるでアシュラ男爵だった。






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