お手紙をこれきりにはしないでください。
あなたの無力な弟をお見捨てにならないでください。

兄上からのお手紙に僕がどれだけ励まされているか、生きようとする力を得ているかをお察しください。


不思議です。
兄上がヴェローナの奪還をお望みでないという文面を拝読して、僕は安堵いたしました。 嬉しかった。
兄上が兵を起こすという無謀をなさらなければ、兄上が無事に生き延びられる可能性が大きくなります。


お手紙をくださるのはこれきりになどということは、どうかおっしゃらないでください。
兄上が生きていることを確かめられることで、僕もまた生きていられるのです。
兄上が生きろとおっしゃってくださったから、あの血文字の手紙でそうおっしゃってくださったから、僕は虜囚の恥辱に甘んじながらも生きているのです。


兄上が、お手紙をこれきりにしたいとおっしゃるのは、もしかして僕の気持ちにお気付きだからなのでしょうか。
兄上をヴェローナの領主の座から追い落とした張本人であるフォルトナートを、僕が愛し始めているということに?

けれど、フォルトナートは僕の気持ちなど知らないのです。
僕は、毎夜、彼に抱かれるたびに、彼に嫌悪の表情を作ってみせています。
でなければ、兄上の弟としての僕の誇りは失われてしまう。

フォルトナートは、僕が彼を憎んでいるのだと思っています。
自分が僕に無理を強いているのだと信じています。

僕は自分の気持ちを彼に伝えたい。
彼に抱きしめられるたび、僕もこの腕を伸ばして彼を抱きしめたくなる。

でも、そうすることができません

そんなみじめなことができるでしょうか。
兄上から、兄上のものだったすべてを奪い、僕から兄上を奪った男に、心までも奪われてしまったと打ち明けることなど。

僕にも、兄上の弟としてだけでなく、僕自身の誇りがあります。


1262.8.2   あなたの弟 アンジェロ






【dopo】