インド洋沖、緯度で言うなら、モルジブとセイシェルのちょうど中間、まさに赤道直下。

中秋の二ヶ月前になら、少しばかり似た色の空が、日本にもあったかもしれない。
まるで、青の絵具をガラスに塗りつけたような空の下、そして海の上に、氷河と瞬はいた。

セイシェルで二人にクルーザーを貸してくれた地元の男は、氷河に結構な礼金を掴まさせられたらしく、ひどく上機嫌で南海に出る氷河と瞬を見送ってくれた。
「あの辺りは、島と島の間が離れててね、自給自足の生活が可能だから、行き来もほとんどないんだ。十数年前にも、人間の住んでいる新しい島が見つかったことがあったなぁ」
そんなことを言いながら。

瞬も、彼に負けず劣らず上機嫌でいたのである。
南の青い空の端に、重々しい黒い雲が湧き起こってくるのに気付くまでは。

こういう時に、
「ね、氷河、あれ、ハリケーンとかいうやつじゃない?」
「ハリケーンというのは、大西洋のメキシコ湾辺りで発生する熱帯性低気圧のことを言うんだ。インド洋で発生する熱帯性低気圧なら、ハリケーンじゃなく、サイクロンだ」
――などという呑気な会話を交わしていられるのは聖闘士だけの特権である。

聖闘士の100分の1ほどの強さもないクルーザーは、サイクロンの作り出す暴風に枯れ枝のように弄ばれ、そして、枯葉のように転覆した。






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