「いくぞ、瞬」 思いがけない言葉を、翌朝、瞬は、闘いのために連れ出された神殿ピラミッドの前の闘技場で聞くことになった。 闘技場の周囲には、この島のどこにこれほどの人間がいたのかと訝るほど多くの島民たちが、神に捧げられる血を期待して集まってきている。 躊躇しつつ、逃げ道も見つけられないまま引き出された闘技場の中央で、瞬は氷河の剥き出しの戦意に相対することになった。 氷河は本気らしかった。 最初から、まっすぐ瞬に向けて、彼の必殺の技と言われているものを放ってきた。 無論、瞬は軽々とそれを避けてみせたが。 氷河が、敏捷な瞬の動きに舌打ちをする。 「……夕べ、あれだけ可愛がってやったのに、疲れていないのか」 「そんなことだろうと思った」 氷河の放った凍気で大きく抉れてしまった地面にどよめいている島民をちらりと横目で見やってから、瞬は小さく肩をすくめた。
「あのね、氷河。あれだけ養生訓されたら、わかるよ、僕だって。氷河が、僕だけ疲れさせようとしてるんだってことくらい」 島民になるべく闘技場から離れているように手で指し示してから、瞬は微笑しながら宣言した。 「でも、残念でした。僕はね、氷河とのことで、気持ち良すぎて気を失ったことはあっても、疲れたりしたことなんてないの。勝つよ。僕は。氷河を僕以外の誰かの生け贄になんかできないもの」 言い終えるなり、瞬は“本気”で、氷河の身体に激しい気流を絡ませていった。 手許にチェーンがないために、瞬の武器は生身の拳しかなかったのだ。 強大な小宇宙が、氷河を中心に、闘技場の周りの木々をなぎ倒すほどの勢いで爆発する。 島民たちのどよめきは、一層大きくなった。 それは、彼等の認識している“強さ”や“力”とは桁が――否、次元が違っていたのだ。 |