こうして、思いがけず9個めの小人さんスタンプを手に入れて、2人はマーマたちのいるところに戻っていきました。

「おかえりなさい。どうだった? お人形は見つかった?」
「はい、氷河がたくさん見つけてくれたの。あと6つで全部見つかるんです」
「それはよかったわね! ……でも、氷河はなんだか随分くたびれて……?」
「小人さんたちがたくさん見つかったのは、氷河がすごく頑張ってくれたおかげなんです」

「そうなの? じゃあ、体力回復のために、さっそくお弁当食べましょうか」
「はーい!」

マーマにそう言われて、瞬ちゃんは、わくわくしながらお弁当の蓋を開けました。

中には、約束通りに、俵型のおにぎりと、たこさんウインナと、から揚げと、ハンバーグ、ぎざぎざに切ったゆで卵に、デザートのウサギさんリンゴ。
色とりどりの美味しそうなおかずが綺麗に並んでいました。

「わぁ……!」
瞬ちゃんは、思わず歓声をあげました。

これまで瞬ちゃんは、遠足の時にはいつも、瞬ちゃんのお兄さんが作ってくれるお弁当持参でした。
瞬ちゃんのお兄さんの作るお弁当は、色合いが茶系で、子供向けにしてはちょっと地味。

もちろん瞬ちゃんは、お兄さんが作ってくれるお弁当を美味しく食べていましたが、ほんの少しだけ、カラフルで可愛らしいお弁当を食べているクラスのお友達のことを羨ましく思ってもいたのです。
念願の、色のたくさんあるお弁当が、瞬ちゃんは嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。


一方、ロシアのお友達は、エネルギー充填を急ぐ気持ちとは裏腹に、お箸の扱いに四苦八苦。
散々苦労して、ようやくつまんだ肉団子も、口に入れる前にぽろりと落としてしまいました。

「氷河。お箸の持ち方はこうだよ」
「うん」
「それで、こうしてつまんで食べるの」
「うん」

ロシアのお友達は、一生懸命お手本通りにやろうとしましたが、どうしても瞬ちゃんがするようにはうまくできなくて、またまた肉団子をシートの上に落っことしてしまいました。

「だんだん使えるようになればいいよね。今日は僕が食べさせてあげるね。はい、あ〜ん」
いつまで経ってもお弁当を食べることができずにいるロシアのお友達を見兼ねた瞬ちゃんが、お箸で肉団子をつまみ、ロシアのお友達の口許に運びます。
ロシアのお友達にとって、それは、非常に、とっても、ものすごーく嬉しいことだったのですが。


実は。
日本にやってきてからずっと、ロシアのお友達はお箸の使い方の特訓を受けていました。
特訓のコーチは、もちろんマーマです。
それは、時に非情なまでに厳しい猛特訓でした。

『うどんやお蕎麦をお箸でさばきながら、ずずずずずっとすするのは日本人のたしなみ! 瞬ちゃんに笑われないように、ちゃんとお箸が使えるようにならなくちゃ、男がすたるわよ! ほら、氷河! お箸は掴むものじゃなくて、握るものなの!』

ごはんを、おうどんを、お豆を相手に、その訓練は熾烈を極めました。

(…………)
思い出される苦しい特訓の数々。

ロシアのお友達は、ちらっとマーマの顔を窺ってみたのです。
ここで瞬ちゃんが差し出してくれた肉団子を食べてしまったら、鬼コーチ・マーマの叱責が飛んでくるかもしれないと思ったからです。

けれど、ロシアのお友達の視線の先で、マーマは、まるで聖母のように優しく微笑んでいました。
その眼差しは、まるで、
『いいのよ、おあがりなさい。瞬ちゃんの厚意を無駄にしてはいけないわ』
と、優しく語りかけているようでした。

ロシアのお友達は安心して、瞬ちゃんの肉団子を食べるために、ぱかっ☆ と口を開けたのです。


実のところ、マーマは、
(なんて心洗われる風景かしら……。この画像は『ロシアのお友達&瞬ちゃん支援同盟』会報第28号の表紙に決定だわ)
なーんてことを考えていたんですけどね。

大人には大人の事情というものがあって、それは子供の事情よりちょっと複雑にできているものなのです。
マーマの隣では、フレアさんがしっかりと、ロシアのお友達と瞬ちゃんの新婚さん・お食事風景をデジカメに収めていました。


「あ〜ん」
「はい、美味しい?」
(こくこくこくこく)

マーマの料理の腕前は、もちろん最高です。
ですが、今回に限っては、ロシアのお友達には、マーマのお弁当のおいしさよりも、眼前に迫った瞬ちゃんのアップと、瞬ちゃんと同じお箸で物を食べているという感動の方が大きかったようでした。






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