I love you,OK


〜 balbatosさんに捧ぐ 〜







それは、『この春ベスト1』と鳴り物入りで日本に上陸してきた、ハリウッドの大作映画だった。
SFXを駆使した特殊効果と派手なアクションとラブロマンス、そして、数十億円にのぼる制作費が売り物の、ありがちと言えば実にありがちな作品である。

それでも、星矢は結構楽しめたらしい。
映画館で買ってきた映画のロゴ入りストラップを、土産だと言って手渡された瞬は、それを見て微笑した。
ものが可愛いからではない。
当日になってから星矢と紫龍に押しつける形で渡したチケットが、二人の迷惑にならずに済んだらしいことに安堵したのだ。



「んでも、なんで、おまえらが行かなかったんだよ? 急用が入ったふうでもねーし、チケット、おまえらにくれたんだろ、沙織さん」

星矢に尋ねられた瞬が、困ったように肩をすくめる。
ラウンジの窓際に置かれた肘掛け椅子に腰をおろし、理化学の論集を読んでいた氷河が、本のページから視線を逸らさずに、
「アメリカン・ジョークの応酬は好かん」
と、ぶっきらぼうにその理由を告げた。

不機嫌そうな口調の氷河に、星矢がこくこくと頷き返す。
「あ、それは俺も思った! 気が利いてるのかどうかはともかくとして、よくああポンポンとセリフが出てくるよなー。眼前にとても勝ち目のなさそうな敵が迫ってる時にさー、『死ぬ前に、何か言っておきたいことはあるか』なんて訊く方も訊く方なら、『昨日貸した1ドル返せ』なんて答える方も答える方だし。あげく、『そんな小銭は持ち歩いたことがない』『そんな奴にコーラを飲む権利はないぞ』で、どっかーん★ だぜ? アメリカ人のセンスってどーなってんだろな、ほんと」

星矢が気に入ったのは、あくまで、その映画のバトルシーンのみだったらしい。
呆れかえっている星矢に、紫龍が映画のパンフレットの協賛企業欄を指し示す。
そこには、世界的に有名な、某清涼飲料水販売会社の名前が記載されていた。

「あれはむしろ、言葉でのバトルだったな。氷河にはできない芸当だ」
どうやらそれで星矢は納得してくれたらしい。
パンフレットを閉じると、紫龍は笑いながら、今度は氷河の上に視線を移動させた。

「俺の商売は、くだらない連続ジョークを飛ばすことじゃない」
「気の利いたセリフを言えねーだけだろ。無理すんなよ」

小馬鹿にしたような星矢の星矢のセリフにも、氷河は無反応だった。
――無反応に見えた。






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