氷河が吉平に瞬の素性を尋ねていた頃、瞬もまた典薬寮の顔見知りに、氷河のことを尋ねていた。

「あの……先ほど帝の拝謁をたまわっていらした、金色の髪をした方はどなたですか」
「ああ、あの方は、高名な安倍晴明殿の子息で、氷河殿と申される。官位はいただいていない方だが……機嫌を損ねるなよ。呪い殺されるぞ」

「無官で、帝の拝謁が許されているのですか」
「官位が高くても、馬鹿なお偉いさんはいくらでもいるだろう。真の実力のある者に官位は不要なんだよ」

「…………」
どれほど才能に恵まれていても、藤原家に連なる者でなければ、華々しい栄達は望めない現在の宮廷。
瞬が氷河の素性を尋ねた相手も、有能ではあるが藤原一門ではないために不遇をかこっている薬師だった。

「彼がどうかしたのか?」
「あ……いえ……あの、狐……」
「何?」
「狐の目をしてた……」

瞬の呟きに、薬師は一瞬、目をみはった。
宋の国で学問を修めて帰国した彼は、風説や迷信の類をことごとく否定していた。
本当は、呪術はもちろん、安倍晴明が狐の子だという噂なども、天から信じていなかった。

「髪はそうだろうが……いや、目もそうかもしれないな。存外に抜け目のないお方だよ」

「…………」

煎じ薬の包を手渡しながら、彼は、
「だから、あの方を敵に回すのはやめた方がいい」
と、瞬に忠告を重ねた。






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