「ねえ、最初の人類は、アフリカに生まれたんだって。そして、長い時間をかけて、世界中に広がっていったんだって」 まるで、氷河の内心を見透かしているかのように、そして、追い詰めるのを避けようとするかのように、ふいに瞬が話を逸らす。 「…………」 うまく大人にあしらわれている子供の焦れったさに似た思いを感じて、氷河はまた微かな苛立ちに支配された。 「他にいくらでも過ごしやすい土地はあったろうに、最初にここを訪れた人は、なぜこんな極寒の、不毛にも思える土地に住もうと――住めると思ったんだろうね」 「他の人間に追われて、こんなところでしか生きていけなかったんだろう」 「かもしれない。でも、どうしてこの白い――狂ってしまいそうなほど白い土地での暮らしに耐えられたんだと思う?」 その理由がわかったところで、このどうにも抑え難い苛立ちが鎮まるとも思えない。 氷河は、瞬の問いかけへの答えを真面目に考えようとはしなかった。 どうせ、瞬はその答えを――瞬は知っているに違いないのだから。 「きっと、初めてこの土地にやって来た人は、ひとりじゃなかった。愛するひとが一緒だったから耐えられたんだよ」 氷河の推察通りに、瞬は自らの“答え”を披露し、それから、少し切なげに言葉を付け加えた。 「今の氷河とは違って――」 「…………」 最初にこの土地を見い出した人間と、今の自分とでは、何が違うというのだろう。 瞬はここにいるではないか。 氷河が心外と言わんばかりに瞬を睨みつけると、瞬はうっすらと微笑して、また窓の外に視線を向けてしまった。 |