王子様はカ・エ・ル


〜 あこさんに捧ぐ 〜







ウートポス国の氷河王子がカエルにされてしまったのは、彼がほもだったからでした。
もとい、結果的に、ほもになってしまったからでした。

まもなく氷河王子が成人の日を迎えるというある夜、ウートポス国のお城で催された舞踏会。
氷河王子は、その舞踏会に兄王の代理でやってきた隣国のエレホン国の瞬王子に一目惚れしてしまったのです。
舞踏会は、氷河王子のお后様選びのために催されたものだったというのに!

ウートポス国の現在の王様であるカミュは、氷河王子のその告白を聞いて大激怒。
カミュ国王は、成人したら氷河王子に王位を返還する約束で臨時に国政を任されている、前国王の弟でした。
つまり、氷河王子の叔父さんに当たります。


「いくら、あの子が可愛いとはいえ、男ではないか! 氷河、答えろ! 一国の王子の神聖な義務とは何だ!」
カミュ代理国王は、もちろん、氷河王子に、
『王政を守り、国を存続させるための跡取りを確保することだ』
とでも答えてほしかったのでしょう。

しかし、氷河王子は、自分をそんな種蒔き機械だとは思っていなかったのです。
「国王の義務といったら、まず、国民の生活を守ってやることだろう。王家の維持存続なんて無意味なことだ。生活が安定していさえすれば、国王が誰だろうが国民は気にもしないだろう」

これまで自分を育ててくれた大恩あるカミュ代理国王に対して、氷河王子は横柄に言い放ちました。

「古代の中国では、堯が位を実子に譲らず、人望のあった舜に譲り、舜も同様、実子でない禹に位を譲って賢帝の時代を築いている。あんただって、いくら俺の親父と約束したからって、別に俺をこの国の王にする義務はないんだ。前国王に義理を立てて無能なガキを王位につけ、蜀の国を滅ぼした諸葛孔明の例もある。親父との約束なんかにこだわらず、俺よりももっと出来のいい後継者を見つければいいじゃないか」
「一理あるが、そんなことになったら王位争いが起こらんとも限らん。一生何不自由のない暮らしができるんだ、意に沿わない姫との結婚くらい我慢しろ」

氷河王子の主張に一理があるなら、カミュ代理国王の言い分にも理はあります。
けれど、恋する王子様には理屈なんて通じないものなのでした。

「とにかく、俺は瞬に惚れたんだ! 瞬以外の奴なんか、カエルやマンドリルと大差ないぜ!」
カエルはともかく、どーしてここにマンドリルが出てくるんだろう? なんて思ってはいけませんよ。
おそらく舞踏会に招待された姫君の中に、マンドリルに似たお姫様がいたのでしょうね。

「ほう、つまり、瞬王子ではないおまえはカエルかマンドリルだということになるな。ならば、カエルにでもなってしまえ!」

カミュ代理国王は実は魔法使いでもありました。
舞踏会では、居並ぶお姫様たちに魔法を使った余興を見せて、大喝采だったのです。


――と、それはともかく。
言うなり、カミュ代理国王は魔法の呪文を叫んで、氷河王子を小さなカエルに変えてしまったのです。

「おまえが諦めて、どこぞの姫君との結婚を決意し、俺に謝罪するか、あの瞬王子に壁に投げつけられるくらい嫌われないと、その魔法は解けないぞ。まあ、どっちの方法を取っても、俺は構わないがな」

「ゲロ」
氷河王子は、この随分なお仕置きに文句の一つも言いたかったのですが、こんな姿で文句を言ったところであまり美しいことにはならないと思い、ゲロゲロ騒ぐのはやめることにしました。
実は、氷河王子は、格好をとても気にする王子様だったのです。

いずれにしても、氷河王子は、カミュに謝罪して瞬王子以外の姫君などと子作りに励むつもりは全くありませんでした。

そこで、氷河王子は、カエルの姿になったのを幸い、城の者たちの目を盗んでお城を抜け出し、一路、瞬王子のいるエレホン国に向かったのでした。






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