「氷河様。このような遠方にまで、ようこそおいでくださいました」

ヤマトナデシコは、確かに、床に三つ指をつき、深々と頭を下げて、氷河を出迎えてくれた。

氷河が訪れたその家は、いかにも“旧家”と呼ばれるにふさわしい日本家屋だった。
門札には『城戸』という名が掲げられている。

東京郊外の――代々その一帯の庄屋を務めてきた家柄らしい――広大な敷地に、凝った日本庭園を抱えたその家の、重々しい雰囲気を漂わせた玄関で、氷河は噂のヤマトナデシコの歓迎を受けた。

まさか、今時、本当に三つ指をついて客人を出迎える若い娘がいようとは、氷河は思ってもいなかった。

淡い緑色の、飾り気のない中振袖を着ている。
おそらく、その着物2着で、銀座の一坪くらいは軽く買えるのだろう。
着物の値段などわからない氷河にも、それくらいの察しはついた。

高い着物をまとって、人間の底上げをしているのかとうんざりしかけた氷河に、彼の婚約者が名を名乗ってくる。

「初めてお目にかかります。瞬でございます」
涼しげな声を、床ではなく氷河に向けて、ヤマトナデシコが顔をあげる。

その顔は──
「……着物より高い……」

「は……?」


ヤマトナデシコの面立ちは、銀座の一等地そこのけの可憐さだった。






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