「そうだな。黄金聖闘士たちが楽しめる文化祭を、俺たちが準備するっていうのはいい案かもしれないな」 「文化ってツラか、あいつらが!」 十二宮戦での恨みつらみを忘れていない氷河が、言下に紫龍の提案を拒否する。 「でも、ゴールドの人たち、みんな、体育祭がなくなっちゃってがっかりしてるみたいだし、これからアテナを戴いて一緒に地上の平和を守っていく仲間として、親睦を深めるのって意味のあることだと思うんだけど」 「瞬の言う通りだ」 と即座に答えたのが、他の誰でもない氷河なところが、彼のツラの皮の厚さを物語っている。 このふてぶてしさを闘いの場でも発揮できていたら、そもそも彼は十二宮戦でも醜態を晒さずに済んだことだろう。 しかし、彼がそれを発揮したのは天蠍宮冒頭シーンのみだった。 それは、『押さえるところは押さえている』と評価すべきことなのかもしれなかったが。 「んー。俺、お祭りは大好きだけど、準備が面倒くさそーじゃん。おまけに体育祭ならともかく、文化祭! 氷河の言う通り、体力勝負の聖闘士がブンカなんてもので喜ぶとも思えないけどなー」 天下の黄金聖闘士たちを自分のレベルにまで落として、星矢が自身の見解を口にする。 「だって、運動場が使えないんだもの……。聖域運動場、今は、ただの瓦礫の山だよ?」 ならば、他に市営の運動場なりオリンピックスタジアムなりを借りればいいではないかというのは、現実を認識していない素人の考えである。 なにしろ、物体の運動量は物体の質量と速度に比例する。 光速の拳を自在に操ることのできる黄金聖闘士たちの“運動”は、どったりどったりと移動するゴジラなどとは衝撃・破壊力の桁が違うのだ。 障害物競走で地面に大穴をあけ、騎馬戦で嘆きの壁も崩壊する。 聖闘士御用達の聖域運動場でなければ、聖闘士たちの“運動”に耐えうる場所は他に存在しないと考えて間違いではない。 「瞬。じゃあ、早速、文化祭の準備に取りかかるか」 星矢の至極真っ当な意見など、氷河の耳には届いていない。 彼は早速文化祭の準備を開始すべく、行動に移ろうとした。 「ちょっと待て」 それを、紫龍が引き止める。 「文化祭の準備に取りかかるのに、なんで、おまえら二人が手を繋いで場を外す必要があるんだ?」 「準備運動だ」 しれっと言ってのける氷河を、紫龍は問答無用で殴り倒した。 |