「久し振りだな、アンドロメダ。明けましておめでとう」

高そうなファーコートを身にまとったカミュは、そう言って、にこやかに、瞬に新年の挨拶を投げかけてきた。

思いがけない時、思いがけない場所に、氷河の師の姿を見い出して瞳を見開いた瞬に、カミュが尋ねてくる。
「──と言うのではないのか、日本では?」
「その通りですけど……どうなさったんですか?」

「年始回りだ」
「は……?」
瞬は、あまりにも定石すぎて、かえって不自然なカミュの答えに、返す言葉を失った。
そんな瞬に、カミュが重ねて尋ねてくる。

「──というのをするのではないのか、日本では」
「その通りですけど……わざわざギリシャから?」

重々しく瞬に頷いてみせた氷河の師は、シリアス極まりない口調で、更に言葉を続けた。
「日本では、新年に迎えた客には、おせち料理というものをふるまうと聞いた」
「それを食べに?」
「まさか。アテナに新年の挨拶をしに来たんだ。無論、出された馳走は食すると思うが」

硬い表情とそのセリフとが全く噛み合っていないせいで、カミュの年始回りの目的が、瞬にはまるで読み取れなかった。

が、付き合いの長い氷河は、カミュの真の目的を即座に看破した――らしかった。
「……栗きんとんが目当てだな……」

「……え?」
瞬は、何か聞き流すのが困難な単語を聞いてしまったような気がした。

が、この師にして、この弟子あり。
氷河は、その笑える単語をにこりともせずに言ってのけ、その上で、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「あれは、普段、なかなか食えないものだからな……」

氷河の呟きに、瞬は、目眩いを覚えずにはいられなかった。






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