氷河は、瞬の中にいて、ずっと見ていた。
そして、瞬の魂と仲間たちの魂が、自分のそれよりもずっと強く美しいことを思い知らされてていた。
だからこそ、瞬の命が失われること、瞬の魂が失われることに、氷河の魂は耐えられそうになかった。


「瞬を助けてくれ。俺の魂はくれてやるから……! 他に何も望まないから……!」
氷河は、1年前にその願いを願った時とは比べものにならないほど真剣な思いで、その願いを口にした。

白い女神が、ヴェール越しに、そんな氷河の瞳をじっと見詰める。
長い間をおいてから、彼女は氷河に尋ねてきた。

「この子は、それがあなたでなくても、同じように命を懸けていたのかもしれない。それでもいいの? この子の強く美しい魂に、自分だけを見ていてもらいたかったのでしょう」
彼女の声音は、ひどく優しいものに変わっていた。

「それでもいいんだ……! それでいいんだ。俺が好きになったのは、そういう瞬だったんだから……!」

どうして、そんなことが、1年前のあの夜にはわからなかったのだろう――?
氷河は、後悔の思いに責め苛まれていた。

自分からもっと、瞬の――仲間たちの魂に触れようとしていたならば、何気なく過ぎていく日常の中ででも、それは十分に知り得ていたはずのことだった。
そうすることをしなかったかつての自分を、今の氷河は憎んでさえいた。


彼女は、また無言になって、冷たくなっていく瞬の身体を抱きしめている氷河を見詰めた。
ややあってから、再び口を開く。

「私は、あなたのためにしか、命を懸けられなかったけれど――」
「え……?」
「きっと、これからは、この子とこの子の仲間たちが、私よりあなたを愛してくれるわね」

彼女は何を言っているのかと思うより先に、この女性は誰なのかという疑念が、氷河の中に生まれてくる。
彼女は、氷河のそんな戸惑いを無視して、言葉を続けた。

「馬鹿ね。私があなたを不幸にするはずがないでしょう。私が、あなたの大切なものを、あなたから奪ったりするはずがないわ」

それは、どこかで聞いたことのある声だった。

「本当は、命のある身体で、言葉で、教えてあげたかったのだけど、私にはその時間が残っていなかったから――。幸せになる方法を、あなたに教えてあげられなかったことだけが、私の心残りだったから……」

それは、彼の母親の――あるいは、この地上に存在するすべての命の母親の声だった。

「でも、もう大丈夫ね」


――母の声は、ただただ優しく温かかった。






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