「氷河……」 切なげに、思い詰めたような顔をして氷河を見上げる瞬の瞳は、まるで生まれて間もなく捨てられてしまった仔猫のそれのようだった。 すがるように、だが、どこかに甘えを含んで、その唇がゆっくりと動く。 「ね、えっちなことして」 「なに?」 さりげなく問い返してみせながら、しかし、実際のところ、氷河は、ついにこの時がきたかと、ほとんど踊り出したいような気分になっていたのである。 しかし、いくら瞬のお誘いに感激したとはいえ、ここで、喜びの舞いなど踊り始めたら馬鹿である。 馬鹿だということはわかっていた。 だから、氷河は踊らなかった。 踊ることができない時、人はどうやって、踊りだしたいほどの歓喜を表現するのだろう。 いったい、どうやって。 どんなふうに――? その方法を、氷河は見付けることができなかった。 尋常でなく、瞬のそのお誘いを喜んでいるというのに、氷河は、その喜びを言葉にも行動にもすることができなかったのである。 まるで、金縛りに合ったように身体を動かせずにいる自分自身を、氷河は訝った。 やがて、その理由に気付く。 氷河は、実際に金縛り――脳は目覚めているのに、身体が眠っているという、あの状態である――に陥っていたのだ。 |