瞬はいつも、氷河には混乱させられてばかりだった。
どうして、あんな奇妙な人間を――しかも同性を――好きになってしまったのだろうと、瞬は時々、自身を訝ることさえあった。


「でも、好きになっちゃったものは仕方ないよね……」

自室のベッドにうつ伏せに倒れ込み、それから瞬は、小さく呟いた。

「“えっちして”かぁ……」

多分、おそらく、それはいつかはしなければならないことなのだろう――とは思う。
自分は今のままでいたいと思っていても、氷河はそうではないのだし、氷河に本気で食い下がられたら、拒み通すことができないだろう自分を、瞬は知っていた。
むしろ、今まで逃げ続けてこられたことの方が、奇跡なのだ。

氷河は、口では意地を張ることも強がることもできるが、そして、その通りに行動することもできるが、彼の目までは嘘をつけない。

氷河が望んでいることを、瞬は随分前から知っていた。
知ってはいたのだが――。

(逃げてると、氷河の目が僕を追っかけてきてくれるから……)

氷河が自分を追っている――追い続けてくれている。
その事実を確信できることが、瞬は心地良かった。
そして、それは、瞬に安心にも似た感情を運んできてくれるものだった。


だが、氷河のあの青い瞳は、自分をいつまで追い続けていてくれるのだろう?
このまま、氷河の視線の意味するものに気付かない振りを続けていたら――氷河は、いつか、つれない恋人を追うことを諦め、その恋を見切ってしまうかもしれない。

そう思い至って、瞬は、自分の想像にぞっとした。






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