『金を持っている人間の側に、人は露骨に擦り寄ってきます。彼等は厚顔無恥で、常識も遠慮もありません』

氷河は、今朝方、二代に渡って氷河の家に雇われている弁護士に言われた言葉を思い出していた。

『私の父が、こちらにお抱えいただく以前の話ですが、某有名企業家が亡くなった時、それまで名前も知らされていなかった遠い親戚の男が未亡人のところにやってきて、夫を亡くして呆然としている未亡人の代わりに葬儀の手配を一切合財取り仕切ったのだそうです。男は、その手数料と称して数百万の金を未亡人の口座から引き出させ、そのまま姿をくらました。とんでもない話ですが、よくあることでもあります。これから、あなたに近付いてくる人間には、気をつけた方がいい。無論、これまで友人だった方々の態度も変わります』

彼は、躊躇もなく、氷河にそう断言した。
変わらない人間はいないと確信しているように。

「俺を御しやすいガキと見くびって、何かを仕掛けてくる可能性は、おまえにもあるんじゃないのか?」
と皮肉に言ってやると、彼は、
「そのお言葉を伺って安心しました」
と、目許に笑みを刻んだ。

彼は、自分の新しい雇用主が多少は期待できるかもしれないと判断したものらしかった。







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