梅雨に入ったというのに、雨が降らない。 だが、じめじめと湿気だけはあって、ここ数日間の湿度は80パーセント以上。 思うに、植物というものは、その花を開かせる時をどうやって知るんだろう。 庭の 「言っちゃ駄目!」 その大声は、俺が開けようとしていた城戸邸ラウンジのドアの向こうから聞こえてきた。 「それは秘密なんだから、氷河には絶対に言わないで!」 「しかし、こういうことは、教えてやるのが親切というものじゃないか?」 「絶対、だめ! そんなことしたら、僕、紫龍と絶交する」 「おい、瞬……」 瞬に絶交されても、紫龍には特に困ることはなかっただろう。 それでも、紫龍は、瞬のその断固とした口調にひるんでしまったらしい。 それは、もしかしたら、紫龍が、同じ屋根の下に起居する者同士の不仲が他の住人の居心地をどれだけ悪くするものなのかを実感していたせいだったかもしれない──最近の俺と瞬を見て。 それはともかく。 瞬が紫龍に絶対に言うなと釘を刺している“秘密”は、どうやら俺に関するものらしい。 当然、俺は、気になった。 ドアの向こうでは、瞬と紫龍のやりとりが続いている。 「氷河に教えてやった方が、色々と事がスムーズに運んでいいと思うんだが」 「獅子は千尋の谷に我が子を突き落として、這い上がってきた強い子だけを育てるっていうじゃない。氷河を甘やかしちゃ駄目」 「これは、甘やかすということとは別のことだろう」 「人間には、自分で考えて、自分で判断して、自分の手で掴み取らなきゃならないものがあるの!」 「 「そうだよ。当然でしょ。だいたい、氷河はみんなに甘やかされすぎなの! 変人だから大目に見てやるべきだなんて、そんな理屈あると思う?」 変人──とは、俺のことか? それは聞き捨てならない。 俺のどこが『変』だと言うんだ? 俺はちょっと寡黙でニヒルなだけだぞ。 星矢みたいに、単純でわかりやすい人間じゃないというだけだ。 紫龍みたいに、突然服を脱ぎ始めたりもしないし、瞬みたいに“本気”のレベルが10も20もあるわけじゃない。 いや、変人というのなら、何よりもまず瞬の兄だろう。 瞬が窮地に陥るたび、どこからともなくやってくる月光仮面みたいなあの兄の方が、俺なんかよりずっと変だ。 「だが、この件はバラしてしまった方が、何よりおまえ自身の──」 「だめ!」 瞬にきっぱりと言い切られて、結局紫龍は瞬の意に沿うことにしたらしい。 それきり、奴の声は聞こえなくなった。 |