一度、試してみたことはあったのです。
どうせ何ものかの命を奪わなければならないのなら、野ウサギや野ネズミなどではなく、せめて声や感情を持たない植物で代用できないものかと。

けれど、緑色の葉っぱや白く可憐な花々は、シュンの口には合いませんでした。
みずみずしいツメクサの緑色の葉っぱも、可愛らしい待雪草の白い花も、シュンの舌には毒のように苦く感じられるばかりだったのです。
口中に広がった毒を消すために、シュンは急いで野ウサギを捕まえ、鋭い爪でその体を引き裂かなければなりませんでした。
残酷な牙で野ウサギの肉を噛み切らなければなりませんでした。

そうして、シュンの命のために、他の一つの命が消えていきます。
悲しい断末魔を森に響かせて野ウサギは動かなくなり、シュンは泣きながら、野ウサギの体を食べ尽くしました。
そんなふうに、シュンは、いつも涙を流しながら、自らの命を保っていたのです。

心は泣いているのに、シュンの身体は、それを美味だと感じます。
シュンの舌は、温かい野ウサギの血を甘く感じ、シュンの体内に摂り込まれた小さな命は、幸福感さえ伴って、シュンの身体の中を駆け巡るのです。

シュンの命の糧になる他の生き物たち。
彼等も必死に生きています。

彼等の命を奪うくらいなら、飢えていた方がいい──。
そう考えたシュンは、食事のための狩りを、なるべく長い間隔をおいてするようにしました。
何日も飢えを耐え、それ以上我慢できなくなった時にだけ、シュンは狩りのために自分の家を出ることにしたのです。
そのせいでシュンは小さく痩せていて、それがますますシュンの風貌をすさまじいものに変えていくのでした。






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