「氷河が恋していた人は……」
瞬はまだ臆病さの残る目をして、氷河に確かめようとした。
臆病な人間は、臆病だからこそ勇気を奮い起こそうとすることができるのだと、瞬はその時初めて知った。

「そんなものはいない。俺はずっと生者おまえだけに恋をしていた。俺が気付かずにいただけで、俺はもうずっと前からおまえだけに恋していたんだ」
“死”に焦がれていた人間は、だからこそ、命の意義を知ることができる。
自分に与えられた命を懸命に生きた者にとってのみ、“死”は輝く宝石たりえる。
自らの生を生き抜くことをしなかった人間に与えられる死は、詰まらない石ころでしかないのだ。

“完璧”ではない瞬と共に、まずは生きることを始めてみようと、氷河は思った。
そして、遠い未来に己れの死に出合った時、それが宝石のように輝いていたら、その時もう一度 死を愛しめばいい。
今は、遠く離れた場所にいる友達を思うように、“死”を感じていたい――と。


二人は互いの手を互いの方へ伸ばした。
それらが初めて触れ合う。
互いの指の持つ 痛みに似た熱さに驚きながら、二人は指を絡めていった。
そうして、この痛みと熱さが“生きる”ということなのだと知る。
身震いするような喜びと共に、二人は二人の命を感じていた。

触れ合う恋が始まった。






Fin.






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