「出来れば青銅5人とムウ様を出していただきたいのですが――」とのことでした。 空色スナイパーさん、実にドラマティック かつ お耽美なリクエスト、どうもありがとうございます! このお題の何がドラマティックといって、19世紀末英国!(=ほも ご法度な時代と国) そして、何がお耽美といって、全寮制男子校!(秘密の花園ー!) お題は間違いなくドラマティック&お耽美。ほぼ完璧。 問題は、私が書いた話が お耽美の『お』の字もない話になってしまったということくらいでしょう(大問題である)。 で、そのお耽美になり損ねた話について あれこれ言い訳をする前に、まずミスのお詫びから。 大変申し訳ありません。わたくしめ、いただいたお題の『19世紀末の英国』を『19世紀後半の英国』と勘違いしておりました; お題のメールをいただいた私は、「うん。ヴィクトリア朝時代のイギリス、全寮制男子校ね!」と、お題の内容を頭にインプットして、話を書き始めました。 で、話を書き終えて、つい先程、この前振りページを作るために、いただいたお題メールを読み返して初めて、自分の勘違いに気付くことになってしまったのです。 「なら、時代を変えればいいじゃないか」と思われる向きもおありでしょう。 ですが、作品冒頭をお読みいただければおわかりになるかと思うのですが、変えられないんです……(というか、『時代を変える』=『掴みのシーンをすべて書き直し』になってしまうんです)。 なので、本当に本当に申し訳ありませんが、今回の話は『19世紀末の英国』ではなく『19世紀後半の英国』の話になっています。 お許しください。すみません。 おそらく、『19世紀末の英国』をお題にくださった空色スナイパーさんには、オスカー・ワイルドの同性愛事件&投獄(1895年)あたりのイメージがあったのだと思います。 せっかくいただいたお題を作品に生かせなくて、本当に申し訳ありませんでした; 迂闊で粗忽なこの性格をほんとにどうにかしたい私です。 はい。では、気を取り直して、前振りという名の言い訳、いってみたいと思います。 んーと。19世紀の英国といえば、何といっても『モラル至上』『ほも ご法度』。 『同性愛ご法度』ではなく『ほも ご法度』なのは、かのヴィクトリア女王が「女同士が恋し合うなんて、そんなこと あるわけありません!」と決めつけたため。 当時は男性同性愛は罪に問われましたが、女性同性愛は法的には無問題だったのです(ここいらへんからして、同時の“厳しい道徳”のいい加減さが伺い知れます)。 とか言いつつ、私は実はイギリス近代史はあまり得意ではなく(他の国や時代なら得意なのかという話は置いといて)、手許にはイギリス近代史の資料もほぼ皆無。役に立つかなーと思ったのは、せいぜい映画『モーリス』のビデオテープくらいのものでした。 でも、『モーリス』の舞台はパブリックスクールではく、パブリックスクール卒業後のケンブリッジ大学。 「ああ、これは参考にならないわね」と思った私は、実はここでも大きな勘違いを犯していたのです。 ケンブリッジって全寮制(カレッジ制)を採用していて、いただいたお題から逸脱していなかったんですね。 私は、『英国の全寮制男子校』=『パブリックスクール』というアタマしかなかったのです。大学が全寮制だなんてありえないと思い込んでいました(「レスビアンなんて、そんなものがこの世に存在するはずないでしょ」のヴィクトリア女王をあまり非難できません。反省)。 ↑ ちなみにこの件も、話を書き終えてから、この前振りページを書くために『モーリス』についてあれこれ調べている際に初めて知った事実。 なにしろケンブリッジ大に入ったことがないので(当たり前である)、本当に全く知りませんでした。 で、その『モーリス』ですが。 この作品の主人公モーリスはケンブリッジ放校後、株の仲買人として働くようになってからも性知識が皆無でした。これは、性的なことを『ふしだら』『猥雑』と見なして、おおっぴらに話をしたり教育されることが許されなかったヴィクトリア朝ならではの事象だと思います。 モーリスは、えっちな妄想をしてしまう自分に悩み、どこも悪くないのに自分は病気なのだと思い込んで、医師のところに行く(モーリスは成人して、働いてるんですよ。24歳)。 彼の性器を診察した医師は、もちろん笑って「異常なし」と言う。 表面ばかりを取り繕った当時の社会では、そういう成人男性も存在し得たということですね。 今回の話の瞬も性知識皆無な設定になっていますが、これは やおい的発想ではなく、時代背景に沿った設定なのでございます。 話は逸れますが、その『モーリス』を観ていて、「えっ!?」と思ったシーンがありまして。 作中 モーリスが自分の同性愛嗜好を治療するためにカウンセラーに相談するシーンがあるのですが、そのカウンセラー役の方がグラナダテレビ制作のホームズのジェレミー・ブレッドにそっくり。 最初は本気で、「彼、こういうのにも出てたんだー」と思ったくらいです。 あとで調べて、そのカウンセラー役の方はジェレミー・ブレッドではなくベン・キングズレーという俳優さんだとわかりましたが、何というかこう、当時の英国の知識層のイメージってああいう感じなんだなーと、しみじみ思った次第です。 ちなみに、モーリスの舞台はケンブリッジ大学ですが、本家(?)パブリックスクールを舞台にした作品に『アナザー・カントリー』というのがあるようですね。 こちらは、もろに、パブリックスクール内でほも発覚→エリートコース脱落→なぜか突然イギリスに見切りをつけロシアのスパイになる生徒――のお話のようです。 パブリックスクールの生活がかなり描写されているようなので、参考のためにDVDを買ってみようかと思ったのですが、ストーリーがストーリーなため、へたをすると影響を受けすぎてしまうかもしれない……と懸念し、私はそちらは未視聴です。 そのうち、機会があったら観てみたいと思います。 そんなこんなで資料をあまり集められない状態のまま、無謀にも話を書き始め書き終えた私。 ほっと一息ついてから、それにしてもパブリックスクールに関するお手軽な資料はなかったものかとサイト巡りをしておりましたら、あるサイトさんで、「ハリー・ポッターシリーズはパブリックスクール小説だ」というテキストを読みました。正直、目からウロコが落ちる思いでした。 ハリポタという作品に対して抱いていた違和感というか不審感が、綺麗さっぱり消え去りましたね。 あの魔法学校がパブリックスクールなのなら、主人公が最初から特別待遇だったのにも納得がいく。 あの世界は『自由・平等・博愛』の世界ではなく、家柄がものを言う身分制社会だったんですね。 子供に自由・平等・博愛・独立等の美徳を学ばせるためにある(のが望ましい)児童作品の世界で、なぜあんなに露骨にえこひいきが横行しているのかと、私はずっとハリポタ作品を快く思っていなかったんですが、そういうことだったのかー! そういう前提をちゃんとアタマに入れて観れば、私もあの作品を楽しめるようになるのかもしれない――と、(今頃になって)思った次第。 これは、言ってみれば、無知の弊害ですよね。 私は私自身の無知のために、知識がありさえすれば楽しめたものを楽しめずにいたわけです。 自分の人生を楽しく豊かにしようと思ったら、人はやっぱり死ぬまで勉強を続けなければなりません。心から そう思いました。 あと、作中のこまごまとしたことについて。 作中、英国の国名を『グレートブリテン及びアイルランド連合王国』としていますが、英国が 現在の国名『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』になったのは1927年。 この話は、1866年頃のものなので、英国はまだ現在の国名にはなっておりません。 それから、氷河が夢を見ているシーン。 あれは、フロイトの『夢判断』に言及して当時っぽさを出そうと目論んでいたシーンだったんですが、フロイトの『夢判断』って1900年刊行なんですね。 つまり、今回の話の時代にはまだ書かれていない。 泣く泣く諦めた私です。 そして、最後まで悩みに悩み、結局代替の言葉が見付けられずに そのまま使ってしまった『可愛子ちゃん』なる言葉。 これは死語……だと思う。死語だとは思うんですが、全く同じニュアンスを持った別の言葉がどうしても思いつかないんですよね、『可愛子ちゃん』。 ほんと、困ったものです。 & 「出来れば青銅5人とムウ様を」のお題に沿うべく頑張ってみたのですが、一輝兄さんとムウ様をあんまり出せませんでした。 これまた、申し訳ありません。 そして、そして、何よりも。 なにぶん私はパブリックスクールに入った経験がありませんので(当たり前である)、作中には間違った記述や この時代にはそういうシステムにはなっていなかったというような箇所が多々あるかもしれません。 そのあたりはお気持ちを大らかに持って読み流していただけましたら幸いです。 よろしくお願いいたします。 今回は色々と不手際が頻発しまして、空色スナイパーさんには本当に申し訳ないことになってしまいました。 だというのに、話を書いている間中、イートン校の黒い制服を着た氷河や瞬ちゃんのビジュアルイメージが頭の中で渦巻いて、書き手である私だけは滅茶苦茶楽しんでいたという事実は、実に報告しにくいことであったりします。 空色スナイパーさん、萌えるお題をどうもありがとうございました! & 今いち萌えシーンのない話ですみません〜; |