死んだはずの黄金聖闘士たちの姿を見たという者が幾人もいるという話を、城戸邸の青銅聖闘士たちの許に運んできたのは貴鬼だった。 双子座のサガ、水瓶座のカミュ、山羊座のシュラ、魚座のアフロディーテ、蟹座のデスマスク。 十二宮の戦いで青銅聖闘士たちとの戦いに敗れて命を落とした者たちが 聖域を徘徊している姿を、幾人もの雑兵や雑仕女たちが目撃し、噂になっているというのである。 「ムウ様は、そんなことはありえないから放っておけって言うんだけどさ。それが一人二人のことじゃないんだよ。黄金聖闘士と違ってフットワークの軽い星矢たちなら、幽霊の正体を探りだしてくれるんじゃないかと思ってさ。それで、こうして ご注進に及んだってわけ」 出されたケーキに舌鼓を打ちながら そう告げる貴鬼は、到底 この事態を真剣に憂えているようには見えない。 黄金聖闘士たちが究明に乗り出さないことが、事態を深刻なものと 貴鬼に感じさせずにいるようだった。 そして、黄金聖闘士たちが動かずにいるということは、幽霊たちが聖域に実害を及ぼしてはいないということなのだろうと、青銅聖闘士たちは察した。 「なんで聖域なんだよ。奴等が恨むなら、その相手は俺たちだろ。どうせ化けて出るなら、俺たちのいる日本に出てくりゃいいのに」 「彼等は日本には不案内だから、迷子になることを恐れたのではないか」 にこりともせず真顔で言うから、紫龍の発言は いつも、冗談なのか そうでないのかの判断が難しい。 どうやら今回のそれは冗談だったらしく、星矢が笑うべきか否かを迷っているうちに、紫龍は笑えない冗談を打ち消すように、今度は比較的 真っ当な意見を提示してきた。 「彼等が化けて出てきた理由は、俺たちへの恨みではなく、志半ばで命を落とすことになった彼等の、アテナや聖域への未練なのではないか」 「だとしたら、僕たちが聖域に行って、アテナは僕たちが守るから大丈夫だよって伝えて、サガたちを安心させてあげた方がいいよ。ねっ」 化けて出てきている幽霊たちの中にカミュがいることを知らされて 無口になっている氷河を 気遣わしげに横目で見やり、瞬が提案する。 その提案に一も二もなく飛びついてきたのは星矢だった。 「それって、いい考えじゃん!」 もちろん、紫龍にも氷河にも異論はない。 青銅聖闘士たちは、満場一致で聖域に向かうことを決議したのである。 それは、幽霊の正体を明らかにするため。 もし、幽霊の出現が 聖域やアテナの行く末を案じてのことならば、亡くなった黄金聖闘士たちの心を安じさせるため。 だが、実はその他に、海王ポセイドンとの戦いのあと、妙に青銅聖闘士たちに よそよそしくなり、彼等に聖域への出入りを禁じたアテナの真意を探りたいという気持ちが、青銅聖闘士たちの胸中にはあったのだった。 |
■ パヴァーヌ : 16世紀 欧州で流行した行列舞踏 |