その日から、瞬(と瞬の仲間たち)は、生きている黄金聖闘士たちと死んでしまった黄金聖闘士たちに悩まされ続けることになった。 なにしろ敵は11人。 12人でなくてよかったと思う時間も与えられないほど、黄金聖闘士たちの攻撃は猛烈 強力 執拗で、しかも傍迷惑だった。 朝から晩まで、入れ替わり立ち替わり 引きもきらずにやってくる黄金聖闘士たちが、瞬にまとわりつき、口説き、時には紳士的とは言い難い言動に及んだりもする。 尊敬 星矢は星矢で、紫龍は紫龍で、それぞれに、負い目や弱みに似た複雑な思いを抱いている黄金聖闘士がいて、冷酷に対処することは極めて困難。 まさに進退両難、青銅聖闘士たちは 動くに動けない状況に追い込まれていた。 「ほんとに、いったいこれは何の冗談なんだよ!」 「まあ……常識で考えれば、黄金聖闘士全員が ある日突然 瞬にとち狂うということはありえないから――これには 何か深い事情があるのだろうとは思うのだが」 「何を甘いことを言っているんだ! あいつらに常識なんてものの持ち合わせがあるか!」 青銅聖闘士たちにできるのは せいぜい、黄金聖闘士が瞬の側にいない ごく短い時間に、黄金聖闘士たちへの不平不満非難を ぶちあげることくらいのものだった。 「要するに、黄金聖闘士たちは全員、揃いも揃って 超ド級の阿呆ばかりだったんだ! 俺たちは、たまたま奴等の聖衣が金色だったせいで、あの阿呆共を買いかぶってしまっていたんだ! くそうっ!」 「ま、黄金聖闘士たちが阿呆揃いにことは否定しない――できないけどさ。んでも、瞬。おまえ、もてまくりじゃん。常識の有無や おつむの出来はともかく、戦いでは第一級の男たちだぜ。もう少し嬉しそうな顔しろよ」 どんな些細なことでもいいから、今のこの悲惨な状況の中に、楽しいこと、愉快なことを見い出したい。 星矢が瞬に無理な要求を突きつけたのは、言ってみれば、そういう思いがあってのことだった。 しかし、残念なことに、今の瞬には、星矢のその思いを受け入れ応えるだけの余裕がなかったのである。 「ちっとも嬉しくなんかないよっ」 「なんだよ。おまえ、もてるの、嫌なのか? そりゃ、可愛い女の子は一人もいないけど、そういう要素はおまえがカバーできるからいいじゃん」 「そういうことじゃなくて――嫌も何も、こういうことは、たった一人の好きな人に、同じ気持ちを返してもらえたら、それで十分なものでしょう。それ以上は――」 『それ以上は邪魔で迷惑』と、はっきり言ってしまうわけにもいかず、瞬が言葉を濁す。 「まあなあ……。確かにこれは有難迷惑っていうか、過ぎたるは及ばざるがごとしっていうか……」 過剰に与えられる好意を これ幸いと受け入れて、黄金聖闘士たちを手玉にとり、聖衣をただでバージョンアップさせたり、ステーキ食べ放題や蟹シャブ食べ放題を喜ぶことのできる瞬ではない。 つまり、黄金聖闘士たちの狂乱は、瞬にどんな益ももたらさない。 となれば、黄金聖闘士たちの脳を侵した悪質な伝染病の原因を突きとめて、この異常事態の解決を図ることが最優先課題なのだが、いったいどうすれば その病原菌を探し出すことができるのか。 こういう時 いつも助言を求めていた老師やムウも 今は敵側、今の彼等に頼ることはできない。 青銅聖闘士たちは にっちもさっちもいかないところに追いこまれていた。 「黄金のおっさんたちが自発的に正気にかえってくれるのが、いちばんいいんだけどなー」 「あれはおそらく 流行り病のようなものだろうから、いずれ下火になる……こともあるかもしれん」 「いずれって いつだよ」 「それは……3日後かもしれないし、30年後かもしれん」 「30年後 !? 僕、そんなにもたないよ! あと3日だって、耐えられるかどうか……」 「まあ……黄金のおっさんたちって、みんな無駄に熱いからなー……」 アテナの聖闘士は希望の闘士。 信じて貫けば、夢は必ず叶うのだ。 背負い慣れたキャッチフレーズが、今はやたらと空しく響く。 聖域を一望できる教皇殿のファサードで、夕陽に染まる12の宮を眺めながら、希望の闘士たちは 長く疲れた嘆息を洩らしたのだった。 |