富士山にも京都にもディズニーランドにも行かず、氷河に案内させて 渋谷、下北沢、秋葉原、吉祥寺を歩き倒した家庭訪問の一行が 日本を発ったのは、それから5日後。 別れ際、カミュは、彼の弟子ではなく瞬に、 「私は、うまく氷河を育てることができただろうか」 と尋ねた。 いったい なぜ師は瞬に そんなことを尋ね、瞬はどう答えるのかと気を揉むことになった氷河の横で、瞬が、 「僕は、あなたのおかげで、今 とても幸せです」 と答える。 「それでは私は良い仕事をしたのだな」 「ええ」 瞬が頷き、カミュが切なげに微笑む。 これは望んだ以上の大団円だと、氷河は思ったのである。 恨みでもなく憎しみでもなく、愛情と思い遣りと優しさの増幅によって至ることのできた素晴らしい結末だと。 だというのに。 カミュに向ける瞬の眼差しが少々 優しすぎるような気がして、氷河はそれが気に入らなかったのである。 不肖の弟子を脇に押しやり、短い言葉だけで わかり合っている二人。 その二人の間で、拗ねることもできず、かといって妬くわけにもいかず――そもそも どちらに妬けばいいのかがわからない――氷河は懊悩することになってしまったのだった。 人間は、どれほど歳を重ねても、家族や師の許から巣立っても、完全に悟りきることのできない生き物。 それゆえ、いつまでも成長の余地がある生き物のようだった。 Fin.
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