青い瞳の… 〜お花見編〜





「あの……星矢、紫龍」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!」

突然星矢が断末魔のごとき叫び声をあげたのは、続く『相談があるんだけど…』のセリフを瞬に言わせないためだった。

星矢の苦悩の理由と深さを知らない瞬はその絶叫に驚いて瞳を見開き、星矢と苦しみを共にしている紫龍は、同情と悲しみの入り混じった視線を仲間に投げかける。
「せ…星矢、落ち着け。まだ、相談事と決まったわけでは……」
星矢は、すっかり精神錯乱の様相を呈している。
自分こそが狂ってしまいたいという自らの胸中の訴えを無理に抑えて、紫龍は、努めて平静を装いながら、星矢を落ち着かせようとした。

季節は春真っ只中。
少々おかしい人間が出てきても不思議ではない時季だったが、まさか自分の大切な仲間が、しかも自分のせいでおかしくなりかけている――などということに思い至りもしない瞬が、罪のない眼差しを心配そうに星矢に向ける。
「紫龍……。星矢はどーしたの? 何かあったの?」
『懲りもせず飽きもせず、毎度毎度何か起こしてるのはおまえらだろーが〜〜〜っっっ!!!!』と言ってしまえたら、どれほど生きていくのが楽だろう。
だが、紫龍にはそう言うことはできなかった。
「よ…横になった方がいいのかな。ね、紫龍、あっちのソファに休ませてあげようよ。ちょっと熱もあるみたい。沙織さんにお医者様呼んでもらおうか?」
友人の取り乱した様子に驚きつつも、心底から星矢を気遣ってあれこれと世話をやく瞬に、真実を告げる勇気は紫龍には到底持ちえるものではなかった。
この瞬に、
『星矢は、おまえと氷河の奇矯な言動に振り回されたせいで、こんな哀れなことになってしまったんだ』
と、誰に言うことができるだろう。
たとえ言うことができたとしても、その後で氷河に半殺しの目に合わされる可能性を思えば、沈黙を守ることこそが賢い人間の選択というものである。

「いや、まあ、星矢には、今年に入ってから,いろいろと辛いことが重なってな…」
精一杯の皮肉をきかせても、紫龍に言えたのはその程度のことだった。
当然、瞬に、紫龍の真意は伝わらない。
「辛いこと? 辛いこと…って、どんな? 僕にできることあったら、僕、どんなことでもしたげるよ。星矢ったら、どうしてこんなになる前に、僕たちに相談してくれなかったの……」
悲しげに瞳を潤ませる瞬の『相談』という単語に過剰反応して、星矢がびくりと肩を震わせる。
哀れこの上ない友人のその肩を、紫龍は慰めるように軽く叩いた。

「あ…でも、これじゃあ、お花見は無理そうだね……。四月に入ったから、そろそろ急がないと桜が散っちゃうと思って、星矢と紫龍を誘いに来たんだけど……」
瞬は一瞬、ラウンジの南側に大きく開いた窓から、春らしく霞んだ水色の空に視線を投げた。

「花見……? 相談事じゃなく?」
「うん。僕、昨日、夕食の後で、氷河と『お花見行きたいねー』って話してたんだけど、それをメイドさんから聞いた厨房のおじさんやおばさんたちが和洋中華豪華六段重ねのお弁当を作ってくれたんだ。『 今日はいい天気だから、楽しんでおいで』…って」
その光景が目に浮かぶようである。
城戸邸の使用人一同は、瞬の真実の姿も知らず、生まれたばかりの仔猫を慈しむ母猫のように、瞬を(文字通り)猫可愛がりしていた。
労働組合に属しているわけでもなく、個人雇用主の理不尽な我が儘を耐えるのが仕事の9割を占める彼等にとって、『いつどんな時にも、誰に対しても分け隔てなく優しく親切』が売りの瞬が可愛くないはずがない。しかも、瞬は、他者に、自分を"善良で悪意を知らない心の持ち主"と容易に信じ込ませてしまえるような特別製の瞳を備えている。
彼等が、瞬の形象に騙されてしまったとしても、それは無理のないことだった。
彼等はおそらく、本来の主人である沙織の今夜のディナーをお茶漬けにすることになど罪悪感を感じもせずに、嬉々として瞬のための豪華六段重ね弁当を用意したに違いない。

「だから、星矢と紫龍を誘いに来たの。おべんと、僕と氷河だけで食べきれる量じゃないし、おじさんたち、おべんと作るのに材料使いきっちゃったから、今日のお昼はコンソメスープくらいしか出せない…って言ってたし、それなら一緒にお花見に行った方がいいかな…って思って。でも、星矢がこんなふうじゃ……」
「俺は行くぞ。花見! スープだけで夜まで保つかよ!」
細く力を失っていく瞬の語尾を握りしめるように強く捉えた声の主は、つい先ほどまで精神錯乱状態でいた星矢その人だった。

「ったく、人騒がせな奴だな! 相談事じゃないんなら、最初にそれを言えよ! おまえらに振り回されるのは、すっげーエネルギー使うんだぞ! 腹減ってたら、それもできねーじゃんかよ!」
できない方がいいのではないか――などという真っ当な考えは、星矢内には湧いてこない。何にでもどんなことにでも積極的に関わっていく態度こそが、星矢を"聖闘士星矢"の主人公たらしめている最重要資質なのだ。

「星矢!」
「星矢……」
瞬は単純に星矢の復活を喜んだが、紫龍はそうはいかない。もちろん、星矢の復活・復調は嬉しかったが、共に苦難をなめつくしてきた仲間の単細胞生物のごとくシンプルを極めた反応に、彼は何か危うげなものを感じたのである。
「……星矢。大丈夫なのか?」
瞬に聞こえぬようにこっそりと耳打ちしてくる紫龍に、星矢は力強く頷いた。
「だってさ、紫龍。相談事じゃないんだろ。花見だろ。てことは城戸邸の外に出るわけだ。いくら氷河と瞬がアレだって、まさか『桜の下でしてみたい』なんて言い出すほどアレじゃないだろ。そんなら絶対平気に決まってるじゃんか。俺たちのこれまでの敗因は城戸邸の中にいたからだったんだよ!」
B型大らか主人公復活。
星矢の推察は安易この上ない希望的観測にも思えたが、それは確かに一理ある推察でもあった。
星矢と紫龍が疲れているのは、要するに氷河と瞬のそちら方面の活動が活発すぎるせいではあったのだ。

「しかし、今からでは……。もう10時近いぞ。花見というのは、場所取りが熾烈なものだと聞いたが……」
「あ、それなら大丈夫だよ。氷河が朝いちで場所取りに行ってくれてるんだ。井の頭公園だっけ? 公園の真ん中に池があって、白鳥がいるとこ。おべんともね、氷河が持ってってくれてるの」
思いのほか元気そうな星矢の様子を嬉しそうに見詰め、瞬が紫龍の懸念を打ち消す。
邪気のない瞬のその笑顔に、紫龍と星矢は錯覚を覚えた。瞬と氷河が割りない仲になる以前、何の疑いもなく瞬を純真無垢な心優しい仲間だと信じていられたあの頃に戻ったような錯覚を――。


ともかく、そーゆーわけで、星矢と紫龍は瞬と共に、満開の桜で辺り一面がピンク色に染まったような井の頭公園へ出掛けることになったのである。


「氷河ーっ、おまたせー! 星矢と紫龍、連れてきたよーっ!」
瞬が星矢と紫龍を引き連れて桜の下にやってきたことを、氷河は決して喜んではいなかったろう。だが、彼の青い瞳には瞬の姿しか映っていないのだから、二人を邪魔だと思うこともなかったらしい。
公園入り口から駆けてきた瞬を、氷河は嬉しそうに瞳だけで笑って出迎えた。

公園の中でもひときわ見事な花を咲かせた桜の大木の下に、花見の用意は万端整っている。
周囲には既に盛り上がっている団体さんもいれば、会社がひけてから夜桜の下で宴会に入る予定なのか、広げられたレジャーシートの真ん中にぽつねんとしている新入社員らしきサラリーマンの姿もある。
いずれにしても公園内は花見客でいっぱいで、日本人の桜好き・宴会好きを疑うことは不可能状態。
もちろん、瞬も星矢も紫龍も日本人の一人であるから、満開の桜を眺めていると、自然に気持ちが弾んでくる。
そして、純粋日本人でない氷河にとっての桜は瞬だった。
故に、桜の下に集った四人の聖闘士は皆それぞれに満ち足りて、花見という行為に突入していったのである。
紫龍は潔くはらはらと舞い散る桜に人生を学び、星矢は厨房のおじさんおばさんが抜かりなく用意してくれていた団子に舌鼓を打ち、氷河は自分の桜の花を無表情に観賞し、瞬は――瞬の視線は、大して見る価値もないようなあるモノに釘付けになっていた。


「瞬? どうしたんだ?」
紫龍が瞬にそう尋ねるのと、氷河が自分の花見を中断して立ち上がるのがほぼ同時。
氷河は、桜の木を二本隔てた向こう側の区画で、夜桜見物のために場所取りをしているらしい若い男の許にすたすたと大股で歩み寄ると、その男の襟首を掴みあげて、本日の第一声を発した。
「瞬、心配無用だ。生きている」

「ほんと? それならよかった。急にぐらっと倒れちゃうから、僕、びっくりしちゃった」
氷河の第一声を受けて、瞬もまた豪華六段重ね弁当の許を離れ、氷河の側に駆け寄っていく。
「朝早くから場所取りしてたのかな…。春になったって言っても、まだまだ朝は寒いよねぇ」
広いレジャーシートの真ん中に倒れている男の肩を抱きあげるようにして助け起こすと、瞬は気遣わしげに彼に声をかけた。
「大丈夫ですか? 具合いが悪いんでしたら、救護所にお連れしますけど……」
「え…? …ああ、つい、寝ちまったい……」
ほとんどお仕着せに見える紺色のスーツは、この場所取りが、今年の春入社した新入社員の初仕事なのだということを雄弁に物語っている。
おそらく、つい数日前まで気楽な学生生活をエンジョイしていたのだろうスーツの男は、自分を助け起こしてくれている人間に詫びも礼も言わずに、寝ぼけた一人言を口にした。
「だいたい、朝の4時から場所取りしろって、いくら上長命令っていったって、そりゃないだろ。俺は家を2時半に出てここに来たんだぜー」
そんなことは誰も聞いていない。
が、彼はとにかくこの仕事への憤りを誰かにぶちまけたかったらしい。
「大変なんですね。少しお熱もあるようですよ。寝不足だからかな」
聞きたいわけではない愚痴を聞かされても、瞬は嫌な顔ひとつ見せず、男の額に白い手を当てて呟く。
「そりゃ熱も出るさ、一流大学の理工学部を出たこの俺が、こんな低次元の仕事を命じられたとあっちゃ――……あ…え…えええっ!?」
自分の不満を吐き出すことに夢中になっていた男は、ここまできてやっと、自分を助け起こしてくれた人物の尋常ならざる愛くるしさに気付いたらしい。彼の額の上にある瞬の手の平に伝わる熱は急上昇した。
「う……うわ、な…なんでこんな超可愛ーコが、俺なんかの側にいるわけー? えー? なんでーっっ!?」
人間というものは愚かな生き物で、自分の身の程を自覚するために、自分には到底敵わないと思えるような存在を知ることを必要とする。
突然身の程を知って謙虚になった新入社員のにーちゃんは、だれきっていた身体をがばっと起こすと、瞬の前で居住まいを正し、緊張した面持ちで、
「だ…大丈夫ですっ! こここここれは単なる寝不足で、ごごごごご心配いただだだく程のここことではははははは……!」
と、訳のわからない日本語を並べたて始めた。
「そうですか…? でも、一応、解熱剤くらいは飲んでおいた方がいいですよ。僕、持ってきてますから差し上げます」
「はっ、恐れいります!」

恐縮しきっているにーちゃんの側を離れ、瞬が星矢たちのいる場所に戻ってくる。そして、瞬は、豪華六段重ねの横に置いてあるミニリュックの中を覗き込み、解熱剤を探し始めた。
瞬のその様子を見ていた氷河は、瞬の目の命令を待たずに、紙コップを手にして池の反対側にある水飲み場に向かう。
いつもと変わらないはずの無表情無口男の横顔は、星矢と紫龍の目には、ひどく不機嫌そうに映った。
星矢と紫龍に、氷河が機嫌を損ねているように見えたのは、おそらく、星矢たちこそが不愉快な気分でいたからだったろう。星矢たちには、夜桜場所取りにーちゃんを、瞬の親切を受けるだけの価値のある男だと思うことができなかったのである。
が、仮にも"正義の味方"を自認している彼等は、立場上、その点を指摘することはできない。
仕方がないので星矢は、別方向から瞬に翻意を迫ることにした。


「なあ、瞬。おまえ、誰にでも親切なのは結構だけど、ほんとに誰にでも同じように優しくしてやってると、氷河が焼きもち焼いて、その相手を殺しかねーぞ。気ィつけた方がいいんじゃねーの?」
「え?」
「だから、氷河がさぁ……」
瞬が、星矢の言葉に、小さく首をかしげる。
だが、瞬は星矢の言葉の意味を図りかねて、首をかしげたわけではなかったらしく、すぐにぽかりと笑みを浮かべた。
「氷河はそんなことしないよ。氷河は僕の考えてること、怖いくらいわかっちゃってるんだから」
「おまえの考えてることがわかるのと、それを快く思えるかどうかってことは全く別のことじゃん」
「……」
瞬には、その言葉の方が意外だったらしい。
星矢がそんな言葉を発したことの方が。

「星矢って平和な人生を送ってるんだね」
瞬は見ようによっては喜んでいるようにもとれる表情で星矢を見詰め、そう言った。
「へ…?」
「最近、悩み事とか辛い事とかなかったでしょ」
「なに言ってんだ!! 俺の人生は毎日悲惨と苦難と試練の連続だぞっ! 今年に入ってからは特に、黄金聖闘士やハーデスあたりと戦ってた方がよっぽどマシな毎日を過ごしてきたんだ!」
それもこれもみんな、どこかの超お幸せ二人組のせいで! とは、もちろん星矢は口にはしない。軽はずみにそんなことを口走り、自分自身の首を絞める事態を招くほど星矢はバカでもなかった。

星矢の必死の訴えに、瞬が軽く肩をすくめる。
「じゃあ、訂正。誰かを好きになったことがないんだ。星矢、そういうことで悩んだり思い詰めたりしたことがないでしょう」
「ば…ばか言うないっ !! 自慢じゃないけど、俺たちの中でいちばんモテてるのも女難を被ってるのも、この俺だぞっ! 美穂ちゃんに、沙織さんに、シャイナさんに――」
「でも、星矢は誰も好きじゃない。…そうでしょう?」
「う……」
それは確かにその通り、だった。
返す言葉を見付けられなかった星矢が、不満げに唇をとがらせる。
瞬は、やっと見付かった解熱剤をミニリュックから取り出して、にこにこしながら星矢に言った。

「道にね、誰か倒れてたら、僕は、駆け寄って、助け起こして、介抱するよ。それが誰でも――氷河でも星矢でも紫龍でも知らない人でも、僕は全く同じことをすると思う」
水の入った紙コップを持った氷河の姿が、池の向こうの桜の木の陰に見える。瞬は、ちらりとそちらの方に視線を投げた。
「僕が知らない人を助けるのは、困ってる人を助けるのは人間として当然のことだと思うからだし、星矢や紫龍を助けるのは、星矢や紫龍が僕の大事な仲間だからだけど、でも、氷河を助けるのは……」

瞬の瞳はいつも通り、素直としか言いようのない輝きを呈している。

「氷河に、僕をもっと好きになってほしいからだよ」

「…………」

「そんな秘密にしておきたいことまで氷河にはわかっちゃうんだもの。だから、氷河は焼きもち焼いたりなんかしないの」
自分の許に戻ってきたばかりの氷河に、瞬は事の経緯を説明することもなく、同意を求めた。
「ね、氷河」
自分が何を尋ねられているのか、氷河は本当にわかっているのかと疑う隙も、氷河は星矢に与えない。
氷河は即座に、瞬に頷き返した。
氷河の返事を確かめた瞬が、今度は、まるで慈愛に満ち満ちた聖母のごとき眼差しを星矢に投げかける。
「そんなこともわからないなんて、星矢はまだまだ苦労知らずのお子様なの。修行が足りないの」
「け…けど、俺は毎日が苦難の連続で、毎日辛酸を舐めて――」
星矢の反論を、しかし、瞬は微笑で遮った。
「じゃ、これからその苦難と辛酸を乗り越えられる力を養うように努めてみてね。僕たち、いくらでも協力するよ」
「え……」
氷河と瞬の協力を得て、人は強くなっていけるものだろうか。
強くなることはできるかもしれないが、それは非常識という分野での強さでしかないだろう。

「苦しいことや辛いことに慣れて平気になるのと、打ち勝って乗り越えていくのって全然違うことだよね。星矢はきっと頑張って乗り越えていくタイプだから」
「う……」

瞬は、そして、トドメを刺すように、にっこりと零れんばかりの笑顔を星矢のために作った。

「頑張ってね♪」

「………………」


「星矢……」
解熱剤を持った瞬と薬を飲むための水を持った氷河が、場所取りにーちゃんのシートの方に並んで歩いていく。その後ろ姿を呆然と見詰めている星矢に、紫龍は気遣わしげに声をかけた。
星矢の驚愕は紫龍の驚愕でもあったのだが、今回は瞬のお名指しがなかった分だけ、紫龍の受けたダメージは少なかったのだ。
××に耽溺している超お幸せ二人組と思っていた氷河と瞬に、人生の苦難を教え諭されてしまった星矢のショックはどれほどかと心配した紫龍だったのだが、瞬の言う通り、星矢は、苦難に打ち勝ち乗り越えていくタイプの人間だったらしい。
拳をきつく握りしめた星矢の言葉は、さすがは"聖闘士星矢"の主人公、実に力強くたくましいものだった。

「くっそー!! じょーだんじゃねーぞっ! 瞬はともかく氷河なんて、あんな限度知らずの××好きにまで見下されてたまるかよっ! 俺は! 俺は、この数ヶ月、俺たちが舐めてきた苦難と辛酸を無意味なものになんか絶対しねーからなーっっ!!!!」
この数ヶ月間味わってきた苦難と辛酸を有意義なものに変えて、その結果星矢が得られるものはいったい何なのだろー? と、紫龍は思わないでもなかった。思わないでもなかったのだが、ともかく、彼は、この場は、星矢の力強い復活宣言を喜ぶことにしたのである。
否、喜ぼうと努めた。

「そうか……。星矢、その意気だ。頑張ってくれ……」
紫龍の励ましは心なしか空虚な響きを帯びていたが、それはいたしかたないことである。
紫龍は、遠い世界に旅立とうとする息子を寂しく見送る母親の気分だったのだ。

その潔い散り様で日本人に愛され続けてきた桜の花びらが、井の頭公園を埋め尽くそうとしている。
かくして、常識の世界に留まる青銅聖闘士は、紫龍ひとりになった。





Continued and Happy Spring Day !







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