「見事だ……」 紫龍は、感嘆の思いを隠せなかった。 アテナの聖闘士の中でも最高位にある黄金聖闘士の技にさえ見いだしたことのない、鮮やかな攻撃の冴え。 紫龍は、同輩である一輝に対して、ほとんど尊敬の念に近いものを抱いていた。 彼は、今日、本日ただ今、記念すべき6月4日・虫の日に、自分の進むべき道を見い出したのである。 冷静になって考えてみれば、氷河と瞬が常識の河の向こうでいちゃついていようが、朝まで元気に頑張っていようが、そのこと自体は何の害もないことなのだ。 紫龍に苦痛を与えていたのは、あの瞳で、あの笑顔で、あっけらかんと氷河との××生活に言及する、己れの非常識に気付いてもいない瞬の無邪気で傍迷惑な言動だった。 そして、邪気のない瞬を責めることもたしなめることもできない己れの不甲斐なさ・歯がゆさだった。 端的に言ってしまえば、解消することも発散することもできないストレスに、紫龍は苦しめられていたのである。 そのストレスが解消できさえすれば、紫龍には、氷河と瞬の度を越した××など、全くもってノープログレムだった。 つい昨日まで、紫龍にはそのストレス解消方法がわからなかった。 だが――。 (さすがは一輝。氷河への憎悪が、実に建設的だ……) 瞬の兄の言動に、紫龍は活路を見い出した。 常識の河を渡り、非常識の川岸に行くことなしに、つまりは、正気と常識を保ったまま、心の安寧を得ることは可能なのだと、一輝は紫龍に身をもって(?)教えてくれたのである。 実に有効な、そして非常に愉快なその方法を。 紫龍の過ちは、正攻法で、瞬を――氷河よりはマトモだろうと思われる瞬を――非常識の河岸から常識の岸辺に引き戻そうとしたことだった。そのために、多大な労力を費やしてきたことだった。 そんな現状を打開し、溜まりに溜まったストレスを消し去るにはどうしたらいいのか。 答えは意外なほどに単純かつ簡潔だった。 無駄な努力をやめればよい。 そして、ついでに、氷河をいたぶってストレスを発散すればいい。 要するに、ただそれだけのことなのだ。 紫龍は、心の中に巣食うように満ちていた濃い霧の晴れる思いだった。 明日からどーやって、あの青い瞳の無表情金髪男をいたぶってやろうか――。 楽しい想像に胸を弾ませながら、竜星座の聖闘士は、半年振りに、心からの笑みをその顔に浮かべたのである。 to be continued.
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