「なんだ、もう丸く収まったのか?」

揃ってラウンジに戻ってきた氷河と瞬を見ると、紫龍はひどく残念そうにそうぼやいた。
が、もちろん、自分の嫌がらせで本当に氷河と瞬が決裂してしまったら困るのは当の紫龍なのである。
残念と思うと同時に、紫龍は実は安堵してもいた。


「ま、プライバシーも秘密もなくなってしまったら、人は人に飽きてしまうものだろうしな」
紫龍がまた、せっかく凪ぎに戻った海面に波風を起こすようなことを言う。

瞬は、しかし、そんな紫龍に、今度は余裕で微笑を返した。

「そんなんじゃないよ。それに、もしそんなことになったとしても、僕は――僕が、氷河の前に、僕の何もかもをさらけだしてしまったとしても、今日の僕と明日の僕は違うから、きっと――」

瞬はその先を言葉にはしなかった。
しなかったが、紫龍には、その先を告げる瞬の瞳の色を読み取ることができたのである。

瞬の瞳は、
『氷河に僕を飽きさせたりなんかしない……!』
――という決意に満ちていた。


「た……たくましいのぉー……」


可憐そのものの外見からは想像もできない、だが、瞬らしいといえば、この上なく瞬らしく前向きな態度に、紫龍は大いに好感を抱いた。
これなら、自分が氷河をいたぶることで、多少のとばっちりが瞬に及ぶことになったとしても、瞬は雄々しく立ち向かってくれるに違いない――と、紫龍は気を安んじたのである。

そうとわかれば、氷河をいたぶるのにも手心を加える必要はない。
心置きなく、心の赴くまま、したい放題ができるというものなのである。


瞬のたくましさに感動しつつ、新たなる戦いのネタを考えるのに余念のない紫龍ではあった。




to be continued







【menu】