揃ってダイニングに入っていった氷河と瞬を出迎えたのは、いつもの通り、紫龍と星矢だった。
星矢はまだ朝食と格闘していたが、紫龍は既に食事は済ませてしまったらしい。
口中に食べ物をいっぱいに詰め込んだまま、
「もーが、みゅん、もがおー」
と、意味不明の朝の挨拶を投げてよこした星矢の横で、紫龍は笹の葉模様の湯呑み茶碗で、烏龍茶をすすっていた。

で、氷河と瞬が朝食のテーブルにつくと、恒例の、
「瞬。今日は何の日か知っているか」
が始まる。

紫龍の『今日は何の日』で、これまで氷河はろくな目に会っていなかった。
納豆は食わせられるわ、日本全国を駆けずりまわらせられるわ、いもしない過去の恋人の存在を瞬に勘繰られるわ、とにかく、ひどい目にばかり会っていた。

昨日の氷河なら、紫龍の言葉を遮っていただろう。
なにしろ、昨日10月26日は、『原子力の日』そして『反原子力デー』だった。紫龍のくそくだらない一言が、地球の滅亡を招きかねない危険な日だったのだ。

しかし、今日は。
今日は違う。
今日が何の日なのかを紫龍が説明してくれるというのなら、これほど都合の良いことはない。
今日は良い日なのだ。
だから、氷河は黙っていた。


そして、後悔することになった。








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