薔薇のロマンス






さて、高貴で美しいご主人様への忠誠という固い絆で結ばれたバラ園のバラたちですが、人のさだめが人の数だけあるように、バラにも色々なバラがいます。

紅バラ、白バラ、黒いバラ。
そして、当然、こういう場合のパターンとして、みそっかすのバラもいるのです。

双魚宮のバラ園では、白いバラの蕾であるバラ33号が、その役目を担っていました。


「いいなあ、みんなはアフロディーテ様のお役に立てて……。僕なんか、みそっかすで、いつまでも蕾のままだし、刺も全然鋭くないし、とても立派なブラッディローズになんかなれっこないよ……」
華やかで元気な仲間たちに羨望の眼差しを向けながら、33号は、今日もちょっとだけしおれています。

そんな33号を見た1号は、しょんぼりしている33号を明るい口調で励ましてやりました。
「何を言ってるんだ、33号! おまえだって、いつかはきっと立派なバラになって、身の程知らずにもアフロディーテ様に逆らう青銅のひよっこ共の心臓をぶち抜けるようになるさ!」

双魚宮のバラ園でいちばん大きくていちばん美しい花である1号に励まされ、33号は、その蕾にほんのり涙を浮かべました。
「1号……。ありがとう、優しいんだね。でも、やっぱり僕なんか……。僕なんか、1号みたいに綺麗じゃないし、いつまで経ってもちっちゃいままだし……」

「そんなことないぜ! おまえの可憐さは、アフロディーテ様のバラ園でいちばんだ!」
「1号、慰めてくれるの……? 1号だって、2号に先を越されて辛い思いをしてるのに……」
「なーに、俺は悲観なんかしてねーぜ。いつかは俺も立派なブラッディローズになって、敵の心臓をぶすっと一突きだ!」
「うん……。1号ならきっと立派なブラッディローズになれるよ。きっと、アフロディーテ様がこれまでに放ったどんなブラッディローズより立派なブラッディローズに……」

「おうよ! 任せとけ!」
1号は大張り切りで、つややかな花びらを、ぴん☆ と太陽に向けて開きました。


美しく男らしい1号のその仕草に、眩しいものを見るような眼差しを向けていた33号は、けれど、すぐにまた花弁を伏せてしまったのです。
「でも……」

「でも?」
「でも、このバラ園から1号がいなくなったら、僕、きっと、寂しくて泣いちゃうよ……」

「さ……33号……」
双魚宮のバラ園でいちばん可憐な33号にそんなことを言われてしまった1号は、なぜだか突然、花芯がドキドキうずき始めました。

健気な33号は、涙を拭って、そんな1号に、更に健気に言うのです。
「ごめんなさい、我儘言って……。僕、その時が来るのを待ってるよ。きっと、綺麗だろうね、1号のブラッディローズ……」
「33号……」


これまで、ただただご主人様のために美しく散ることだけを願ってきたバラ1号。
彼は、突然自分の中に湧き起こってきた不思議に甘酸っぱい気持ちが何なのかを知りませんでした。

初めて経験する感情に戸惑いながら、それでも、1号は、可憐な33号から目を離すことができずに、ひたすら花芯のうずきに耐えていたのです。




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