薔薇の幸せ






勝利は美しく、敗北は醜い──。

高貴で美しいご主人様に育てられ、美しく華やかに咲くバラたちには、ご主人様の醜い姿は見えません。

ですから、最近バラ園にご主人様が姿を現さなくなった訳も、十二宮が妙に静かになってしまった訳も、双魚宮のバラたちは知らずにおりました。


「最近、静かだな」
「アフロディーテ様はまだ帰っていらっしゃらないのかなぁ」
「そういえば、他の黄金聖闘士たちも出掛けたきりみたいだねぇ……」

バラたちは、以前と変わらずに、ご主人様への忠誠に燃えていましたが、愛するご主人様の高貴で美しい姿こそが何よりの養分であるバラたちは、最近ちょっとしおれ気味でした。
でも、もちろん、バラたちは、自分たちが生まれてきた訳と生きる目的とをちゃんと知っていますから、そんなことで枯れたりはしないのです。

「きっとまた、新たな敵が現れたんだよ」
「アフロディーテ様は、びしばし敵を蹴散らすのに、お忙しいんだね」
「そうさ。だから、アフロディーテ様がお帰りになった時、俺たちを見て少しでも心が休まるように! みんなっ、花びらに磨きをかけとけよ!」

「おう! 今日も俺の花弁の調子はサイコーだぜー!」
「アフロディーテ様が戻られるまで、このバラ園は俺たちがきっちり守り抜こうぜ!」

「おおーっっ !! 」× バラの数


仲間たちの頼もしい決意を聞いて、このバラ園でいちばんの古株のバラ1号も、大いに張り切りました。
「みんな、燃えてるな〜! うおーっっ! 俺の葉緑体も熱くなってきたぜー!」

張り切る1号の雄々しい姿に、33号はうっとりです。
「1号……。気孔から光があふれ出てるみたい……とっても綺麗」

「さんきゅー! 今日の33号も可愛いぜ!!」
「1号ったら……(ぽっ)」


そう、1号が張り切るのには、仲間たちの頼もしさとは別に、もう一つ理由がありました。
つい数日前、1号は33号に愛の告白をして、33号のハートを見事に射止めていたのです。

1号の告白は、当然、仲間たちの前でされましたから、1号と33号は、今では双魚宮のバラ園公認の恋人同士でした。


「おっ、33号が赤くなってるぜ」
「ひゅ〜ひゅ〜」
「憎いぜ、お二人さん!」

「お……おい、やめろよ、照れるじゃないか」
「ははっ、1号まで赤くなったぞー!」


恋はバラを美しくします。

バラ1号は以前にも増して雄々しく美しくなり、33号は、その可憐さに一層磨きがかかっていました。




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