時々瞬は、
「苦しくない?」
と、氷河に尋ねてくる。

そういう時の瞬は、氷河の“罪”を食べたがっているのだということがわかっているので、氷河は必ず、
「苦しい」
と答えることにしている。

ヤハヴェの神が、人間に決して拭い去ることのできない原罪を負わせた禁断の果実は、本当は善悪を知る実などではなく、善悪を超越した愛を知るための実だったのではないかと、瞬を抱くたびに氷河は思った。

その果実は甘い。
その果実の味を、人間は誰もが生まれながらに知っている。
だから、人は、それを求めずにいられないのだ。

その果実の甘い味を知って、瞬は、日一日と生気を増し、強く美しくなっていく。
そんな瞬を見ていると、人間がエデンの園を追放になったことはこの上ない僥倖だったのではないかと、氷河は思わずにはいられなかった。

罪のない清浄な楽園エデンでは、人はその甘さを味わうことは決してできなかっただろうから。











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