「神々の国を作る。地上を悪と汚辱に染めた人間たちを滅ぼして」 汚されていく世界を憂う神にすれば自然な発想なのかもしれないが、人間の立場に立って聞けば傲慢この上ないことを言って、地上を再びデュカリオンの洪水で覆い尽くそうとした太陽神アベルが、瞬に目をとめた理由を、瞬は知らない。 聖域の奥深くにある禁域の太陽神殿には、死に瀕した女神がいた。 仲間たちは傷付き、石の床に倒れ伏している。 そして、瞬の前には、神である自らの力を絶対のものと信じる太陽神がいた。 傲慢な神の瞳には、なぜか孤独の影が射している。 それは、自分と同じ神であり、また妹でもあるアテナに、己れの思いを理解してもらえなかったせいであったかもしれない。 あるいは、人間という生き物に汚染されてしまった妹を死に追いやらねばならなかった自分自身への憐憫の故かもしれなかった。 彼は妹の死を悲しんでいるのではない。 妹に死を与えなければならなかった自分自身を悲しんでいる。 それは、瞬には傲慢としか思えなかった。 (そんなもののために、この地上は滅びるのか――) そんな我儘な神よりも無力な自分が、瞬は辛くてならなかった。 神がそんなにも傲慢な者たちなのであれば、人間が滅んだ後にできるという神々の世界もまた、罪と汚辱に満ちた世界に違いない――それは、瞬の哀しい確信だった。 人の心を読めるという神が、傷付き動けずにいる瞬に視線を向ける。 視線が出会い、彼は、微かに眉をひそめた。 「人間の分際で、そんなことを考える方が、よほど傲慢というものだろう」 低い声。 その声は悲しみに沈んでいた。 自らの。 自分以外の誰をも哀れんでいない声だった。 (こんな――こんな神のために、地上は……) 傲慢に対峙した時、人はどういう感情を抱くものだろう。 多くは怒り、あるいは蔑み。 しかし、瞬の心は、そういった感情に長くとどまらないようにできている。 それらをすぐに通り抜け、瞬が次に辿り着いた場所は、哀しみを伴った同情だった。 (こんな哀れなひとのために、地上は――) それが、自分が神であることの誇りに固執しているアベルの、まさに誇りを傷付けた。 神が人間に――しかも、自らの力では立ち上がることもできないほど傷付いて無力な人間に――同情される。 アベルにしてみれば、それは、あってはならぬことだっただろう。 |