人質は全人類。 瞬が逃げ出すことはない。 それは、アベルも承知していた。 自分がそれを許さない限り、瞬が太陽神に縛られたままでいるということは。 だが、そんなことに何の意味があるのかとも、アベルは思い始めていたのである。 最初は、小生意気な子供に神の力を見せつけ、その身体と心とを神の意のままに変えるゲームを楽しむつもりでいた。 無知な子供らしい綺麗な理想を打ち砕き、希望を奪い、瞬の中にあるはずの醜いものをその眼前にさらけ出して、人間の存在が無価値・害悪だと認めさせる。 その上で、アベルは人間界を滅ぼさないという約束を、瞬に破棄させるつもりでいた。 そうなるだろうと思っていた。 だが、瞬の心を汚す以前に、アベルは瞬の心を掴めずにいた。 その感触は、身体と同じように優しい。 今では、瞬は太陽神に怯えの感情は見せない。 今では、アベルは、自分が瞬に哀れまれていることすら心地良かった。 弱みをさらすことで、瞬の心を捉えられるのなら、それでも構わないとさえ思っていた。 だが、瞬の心を自分以外の何者かが占めていることは許せない。 神以上に、瞬の心を惹きつけるものがこの世に存在してはならない。 それは、許せることではなかった。 |