あの時、瞬は、アベルに全く抵抗していなかった。
瞬が自分の意思で太陽神の許にいることは事実のようだった。


だとしたら――氷河には、唯一の経緯と結果しか考えられなかった。
瞬は、仲間と人間の世界を救うために、自分を生け贄としてアベルに差し出したのだ──としか。


瞬ならやりかねない。
瞬ならそうするだろう。

それ以外のどんな可能性も、氷河には考えられなかった。

こんな卑劣な手段で、瞬を我が物にしていることを誇るような男に、たとえそれが神であっても、瞬が心を寄せるはずがない。


誰かのために自らを犠牲にする。
それは、瞬の美徳でも不幸でもない。

ただの哀しい本性なのだ。

そして、それは、苦しいほどに厳しい現実でもあった。








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