「今夜は泊まっていけるか」

そう尋ねた時、だが、俺は瞬を抱きたいなんて考えてたわけじゃない。
俺はただ――瞬を、瞬の恋人の許に帰したくなかったんだ。

「氷河の恋人は?」
「おまえしかいない」
「今夜は?」
瞬が、くすりと微笑って、俺の顔を覗き込む。

「口がうまくなったね」
「今も昔もおまえしかいない」

それは本心だった。

瞬は、だが、信じてくれなかった。
「嘘つき。この部屋、女の人の匂いがする」

「……おまえの代わりができる女がいるかもしれないと、探していただけだ」
「カマかけただけ。やっぱり、そうなの。困った遊び人さんだね」

瞬は、そう言って――また微笑した。

なぜ微笑ってなんかいられるんだ。
俺がこんなに、おまえの後ろにいる男に嫉妬しているのに――!


「どんな奴なんだ」
俺は馬鹿だ。
聞かずにいればいいものを、どうしても聞かずにいられない。

「普通の人。でも優しい。……って言うより、甘いのかな……?」
「おまえになら、誰だって甘くなるだろう」
「氷河以外は?」
「…………」

どうして、そんなことを言ってしまえるんだ。
あの頃の俺が、どんなにおまえを甘やかしてやりたいと思っていたか、おまえは知らなかったとでもいうのか?

おまえが俺だけの人形でいてくれたなら、そうできていただろう。

おまえの中に取り込まれ、自分を見失いそうになるほど、俺はおまえを愛していた。
いっそ、おまえが俺自身と同じものだったらと願うことさえして、そうできないことに苛立っていた。


苛立ちが――俺の愛撫を乱暴にした。
おまえを愛するためじゃなく、おまえが俺のものだと印すために、俺はおまえの身体を俺の下で捻じ伏せた。


おまえは――泣いてばかりいた。





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