「もう、僕のいれたお茶ならともかく、僕の汲んだ水が飲みたいなんて、氷河ってば、なに考えてるの……!」

瞬がラウンジに戻ってきたのは、星矢の挑発をどう回避しようかと、紫龍が考え始めた時だった。
手に、ティーカップが3組載ったトレイを抱えている。

「せっかくキッチン行ったんだから、少しは有意義なことしようと思って」
その有意義なことというのが、仲間たちのためにお茶を用意することだったらしい。

テーブルの上にカップを置くために伸ばされた瞬の腕。
ノースリーブの、二の腕の内側に、先程まではなかった薄紅色の痣があるのに、紫龍はすぐに気付いた。

瞬をラウンジから連れ出して、氷河は氷河で、氷河にとって有意義なことをしでかしていたものらしい。
星矢ではないが直感で、紫龍は、氷河が瞬のそんなところにそれを刻み付けた訳をすぐに悟った。

たとえ一時的なこととは言え、自分から瞬を奪いとっている男に、瞬が誰のものなのかを思い知らせるため――。
紫龍に見せるために、おそらく氷河は、瞬の腕に“噛みついた”のだ。



「紫龍、ごめんね、中座して。何の話、してたんだっけ?」

「氷河が、おまえに強引に迫った話」
紫龍が答えるより先に、星矢が横から嘴を入れてくる。

「え?」
「なんでもなーい」

反問した瞬に何の答えも返さないまま、星矢がラウンジを出ていこうとする。

「あ、星矢、お茶を――」
「俺の分も、紫龍が飲みたいってさ」


完全に、星矢は面白がっていた。
それほどに、闘いのない日々に、星矢は退屈しているのだ。






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