無論、瞬に欠点がないというわけではなかった。 瞬は、支配者になる者としては致命的とも言える欠点を持っていた。 冷酷になれない。 多のために少を切り捨てることができない。 ──それが瞬の持つ第一の欠点だった。 第二のそれは、武芸である。 乗馬は、身体に合った大きさの馬を与えられると軽く乗りこなしてみせてくれたが、瞬は剣技はあまり巧みではなかった。 センスが悪いわけではない。 教えればすぐにコツを掴み、軽快に剣をさばいてみせてくれた。 ただ防御一辺倒で自分から仕掛けることがない。 いつまでも対戦相手の──氷河の──剣を躱してばかりいる。 それでなくても身軽な上、小リスのように敏捷な瞬の、その防御の術は見事ではあった。 それは、確かに、決して負けない闘い方である。 瞬の体力が続きさえすれば、いつかは敵の方が疲れ倒れるだろう。 だが、子供の瞬にはその体力が不足しており、体力の消費を軽減する技術も持っていない。 打ち合いは、氷河が決定打を仕掛けるまでもなく、瞬がひとりで自滅していった。 兵法も、あくまでも敵軍を打ち負かすためではなく、自軍の防御を重視する戦法を好みがちだった。 「平和な時の王なら、それでもよろしいでしょうが――」 「僕が王になったら、戦はしません。だから、これでいい」 氷河が、無駄に戦を長引かせるよりは、多少の犠牲を覚悟して攻撃に転じた方が有益だと諭しても、瞬は横に首を振るばかりだった。 「僕、氷河の仕事を知っています。戦の勝敗を決するのは、本当は兵力でも軍備でもないですよね。そして、国の方向性を決めるのも戦の勝敗じゃない。僕は、むしろ、諜報活動を含む国内外の情報網を発達させたいんです。手に入れた情報を有効に活用すれば、血気に逸った王や将軍の意思を変えることもできる。民衆はいつだって戦など望んでいないし、戦さえなければ国力を養うこともできるでしょう?」 瞬が口にする言葉は、氷河の耳には、綺麗な理想事に聞こえた。 人と人が争い傷付け合うことのない、平和で美しい国。 人間に欲というものがある限り、そんな社会が実現するはずはない。 叶うはずのない、だが、叶えたい理想。 それは、瞬にとっては、夢に見、努力する価値のある理想なのだろう。 そして、瞬は、報われないかもしれない努力を続けることのできる人間なのだ。 |