あの一件以来、瞬が王に会うのはこれが初めてだった。

氷河は、王の姿を見た瞬が、忘れかけている記憶を取り戻すことを何よりも怖れていたが、それは杞憂に終わった。
瞬は、王を恐れているようだったが、それは最初に王に謁見した時に感じていたものと大して変わらない恐れのようだった。


悪夢の記憶は、瞬の中で、確かに薄れかけている。
王が瞬に何か言いはしないかと危ぶんでもいたが、王は公の場での威厳と品位の保ち方を心得てはいるらしく、それも無用の心配だった。
王は、ふたりの候補者にしきたり通りの言葉をかけただけだった。


瞬の様子をハーデスから聞いてはいたのだろう。
機嫌が良さそうに瞬を眺めては、王は、意味ありげな北叟笑みを浮かべていた。
氷河の苦労を水泡に帰す好機を見計らっているという様子だった。






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