「いくら医学が進歩したと言ってもね、機械の遠隔操作では、容態を確認するにも限度というものがあるんだよ」 (患者の我儘には慣れているが……。いや、城戸のお嬢さんの我儘には慣れていると言うべきか) 我儘な患者の気持ちを和らげようとして、医療センターの外科医師は、にこやかにそう言った。 「危地は脱したと言っても、油断は禁物だ。医師を遠ざけようとするのは、大変よろしくないよ、瞬くん」 (しかし、驚異的回復力だな。ほとんど瀕死の状態で運ばれてきたというのに、この短期間であっさり完治してしまった。研究してみたいもんだ。もとは普通の人間だという話だが、こんな細い子が片手で岩をも砕く聖闘士とは……) 「君の身体を診ないことには、退院の許可も出せない」 (普通じゃない。この子の体細胞はどうなっているんだ。染色体に変化は生じているのか) 患者を労る医師としての言葉と、興味深いモルモットを目の前にした研究者としての思考。 「はい。すみません」 瞬は、医師の言葉しか聞こえていない振りをして、素直に彼に頷いてみせた。 「ナースコールも一度もしてくれないのね。患者さんに遠慮されたら、私の仕事がなくなるわ。気にしないで、いつでも呼んでちょうだい」 医師に従っていた看護婦は看護婦で、医師よりもはるかに、言葉と思考の乖離が甚だしかった。 (しっかし、ほんとに綺麗な子よねー。あーあ、こんな子、みんなの前に連れてって、見せびらかしてやったら、みんな羨ましがるだろーなー。あたしのオトコを横からかっさらっていったあのバカ女とかさ。この子は、あの女が連れ歩いてる男共とは次元が違うもんね、なにしろ。あ、でも、見せびらかすのなら、この子のお仲間の金髪美形の方がいいかもなー) 「ありがとうございます。でも、ほんとに大丈夫ですから」 それ以上、彼等と接している時間を長引かせないために、瞬は、聞き分けのいい患者の振りをするしかなかった。 |