(それにしても――) まるで憑き物が落ちたように平静さを取り戻した瞬の中に、ふいに、氷河の思念が聞こえてくる。 (俺を助平なだけの男だと思ってたのか、瞬の奴は。馬鹿にするにも程がある) 「だ……だって、氷河の頭の中、いつもそれだけでいっぱいだったんだよ! だから、僕……」 弁解するように叫ぶ瞬の瞳を見て、氷河が微かに口許を歪める。 (ああ、読めるんだった) 「気持ち悪い……?」 恐る恐る、瞬は氷河に尋ねた。 こんな力は無い方がいいに決まっている。 今は嫌われずに済んでいても、いつか、この力のせいで氷河に疎んじられるようになるかもしれないという不安が、瞬の中に生まれ始めていた。 が、氷河は、その程度のことで瞬を避けるような、デリケートな神経を持ち合わせた男ではないらしかった。 「いや、いい力だ」 「え?」 氷河が、にやりと、どこか下卑た笑みを瞬に向けてくる。 そして、彼は、思念を意識して作った。 (今夜もやりたい。おまえとやりたい。目一杯やりたい) 「…………」 まるで開き直ったようにあからさまな氷河のその“言葉”に、瞬は声を失った。 「――と、星矢たちに知られることなく合図ができるわけだし、それに」 氷河の手が、瞬のいるベッドの毛布の中に忍び込んでくる。 「この手の言葉を聞かせるだけで、おまえはこんなになる」 そして、氷河の指は、瞬の人目をはばかる部分を、からかうように弄び始めた。 「あん……っ」 「夜まで待つのはやめようか」 「結構です……!」 瞬が、頬を上気させて、いたずらな氷河の手が逃れようと、身を捩る。 だが、氷河の指を払いのけるために、瞬の手が動かされることはなかった。 「俺は、おまえの思考を読む力は持っていなくても、おまえの真実を見抜く力を持ってるからな。痩せ我慢は身体に毒だ。したいんだろ?」 言葉を飾る必要性を感じなくなったのか、氷河は、実に直截的かつ下品な言葉で、瞬を挑発してきた。 「だ……だって、氷河、今、着替えたばかりでしょ! 駄目、ちょっと待って。やめてよ!」 「人間が服を着るのは脱ぐためだ」 訳のわからないことを言って、氷河が、その全体重を瞬の上に乗せてくる。 氷河から逃れることは、もう不可能のようだった。 |