「2ヶ月前……。僕、あの人に会ったかしら……?」

朝の光の中で、瞬の思考はまだ少しぼんやりしていた。
それでも、自分がこれまで一度も彼に会ったことがないという事実には、疑いの入る隙がないことだけはわかる。

もし以前に、一度でも会っていたのなら、あれほど綺麗な瞳を忘れるはずがなかった。
では一方的に見られたのか――という可能性も考えてみたのだが、それもあまり現実的なものではない。

今現在、皇帝の寵を受けている女人がいないとはいえ、後宮は基本的に男子禁制である。
まもなく15になる瞬も、そろそろここを出なければならない時期が近付いてきていたが、少なくとも後宮に起居している瞬を、若い男が覗き見ることは不可能なことだった。





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