オタク二人の会話は、やがて日本にやってきた宣教師たちの話題に移り――それもあまり楽しいものではなかったが――彼等は、その夜、僕を脇に押しやって、酒も入っていないのに、随分と盛り上がっていた。

素人で、父さんの話についていける人間はそうそういない。
だいいち、普通の人なら、確実に引く。
思う存分自分の知識を披露することのできた父さんは、その夜、至極ご機嫌だった。

「詳しいのは戦国以降と言っていたが、実に博識だ」
我が家を辞去する客人を見送った後、父さんは、それまで視界に入っていなかった彼の息子の方に、やっと向き直った。

「九州の人なの?」
「いや、私と同じで、東京から展示会を見に、わざわざ出向いたらしい。あっちにも家はあるらしいが、東京にも何軒か別宅があるようなことを言っていた」
「どういうこと? お勤めしている人じゃないの」
「さあ。そんなことは尋ねもしなかった。要するに、金と暇を持て余した趣味人というところだろう。フェレイラ神父関連の資料を持っていると言っていた」

フェレイラ神父というのは、父さんと彼の話から察するに、厳しい拷問を受けて転んだ江戸時代初期の宣教師らしい。
どこの誰なのかも確かめずに赤の他人を自宅に招き入れ、あげく、本当にあるのかどうかもわからない資料の話に瞳を輝かせる父さんを見て、僕は溜め息を洩らすことしかできなかった。





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