冬休みが終わり、新学期の最初の日に、僕のクラスに季節外れの転入生があった。
僕の通う学校は、3年間クラス替えがないから、こんな中途半端な時期なのに、来年度からのことを考えて、あえて編入してきたんだろう。

その転校生の姿を見て、僕は目をみはった。

ロシアから来たという、その転校生は、氷河にそっくりだった。
明るい金髪と青い瞳。
10歳くらい若返った氷河──に見えた。
氷河の生まれ変わりと言われたら、僕は素直に信じていただろう。
人の魂が、どれほど時間というものに縛られているものなのかを、僕は知らないけど。
生まれ変わりなんて、そんなものがあるのかどうかも、僕は知らないけど。

新しいクラスメイトたちに、流暢な日本語で──もっとも、丁寧語までは使いこなせていないみたいで、ちょっとぶっきらぼうだったけど──彼は言った。
「よろしく。我が家は、両親も祖父母も代々日本贔屓なんだ。先祖には鎖国以前に日本に渡った者もいたらしい」

喉と瞳に、何か熱いものが込み上げてくる。
それを耐えるのに、僕は必死だった。

それが何なのかわからない。
僕を捨てていってしまった氷河を求める気持ちなのか、あるいは懐かしむ気持ちなのか、それとも憎悪なのか。
でも、氷河にそっくりな彼の姿を見た時に、僕のすることは既に決まっていた。

HRが終わるなり、僕は彼の机に近寄っていき、
「僕、瞬っていうの。友だちになってくれる?」
と、言った。
そして、にこやかに笑って、彼の腕に手で触れた。

清純で人なつこい少年を演じるのなんて簡単。
はっきり見てとれないほどの媚を瞳にたたえて、僕は、彼を彼を見上げ、見詰めた。

「あ、俺は──」
「名前は、さっき聞いたけど、なんだか舌を噛んじゃいそうで、僕、言えない。ねえ、日本ここでは、日本語の──別の名前をつけることにしようよ」
「別の名前?」
「うん。そうだね、氷河がいい。永遠に溶けない氷の河っていう意味だよ」
「氷河……?」

彼が──氷河にそっくりな彼が──戸惑ったように僕を見詰める。
氷河と同じ青い瞳で──でも、氷河ほどには闇の色に染まっていない明るい青い瞳で。
そして、彼は、こんな僕を見て、まるで何か眩しいものでも見るみたいに目を細めた。


僕の心は決まっていた。
氷河が、あの眼差しで、僕を永遠に捕えてしまったように、僕は彼を捕まえる──。






Fin.





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