サガは、それ以後、瞬に乱暴を働くことはなかった。
彼は、どうやら必死に、あのおしゃべりな──正直な──“サガ”が表層に現れることを阻んでいるらしい。

サガの自制は、しかし逆に瞬に緊張を強いた。
サガは、ひどく辛そうな目をして瞬を見ることをやめなかった。
しかも、言葉はない。
瞬は、彼の視線を受け止めていることが苦しかった。
いったいどうして自分なのか、瞬には、その訳が全くわからなかった。

その上、瞬は、氷河に事実の隠蔽をしなければならなかった。
なるべく氷河を避け、出会ってしまった時には、何も起こらなかった振りをしなければならなかったのである。
死んだ者のために、彼の心を煩わせたくもなかった。
そして、それ以上に。
その事実を氷河に打ち明けた時、自分が簡単に氷河に許されてしまうことがわかっていたからこそ、瞬は氷河には知られたくなかったのである。

瞬の懸命の努力にも関わらず、氷河が、瞬の挙動の不自然に気付くのに、大した時間はかからなかったが。





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