「ともかくよかった。おまえが生きていてくれて。笑えない早とちりで、本当に死んでしまうところだったが……あとで星矢たちに馬鹿にされることを覚悟しておこう」 「氷河、僕……」 当座のトラブルは解決したと言わんばかりに明るい表情を取り戻した氷河を、瞬は恐る恐る見上げた。 知られてしまい、そしてこれからも共に生き続けていくのなら、自分の犯した罪を隠しておくことはできない。 瞬が何を言おうとしているのかを察した氷河は、だが、瞬の言葉を遮った。 「メロドラマみたいなセリフは聞かないぞ。俺は嫉妬深いから──何も聞きたくない。俺は、おまえが俺の側に戻ってきてくれさえすれば、それでいい」 「氷河……」 「おまえが、以前と同じように俺を好きでいてくれさえすればいいんだ」 『そうだな?』と確かめるように、氷河が瞬の顔を覗き込む。 瞬は、即座に頷き返すことができなかった。 懺悔しなくても許される。 許さずにはいられない──。 氷河が、自分を、許すことをせずに失ってしまうことには耐えられないほど大切で必要な存在だと思ってくれているのだということは、瞬にもわかっていた。 瞬が犯してしまった過ちは、氷河にとっては決して楽しいことではない。 それでも彼は、瞬を失いたくないから、瞬を許してしまうのだ。 (そんなふうに、氷河は許してくれて、そして、だから、僕はますます氷河から離れられなくなって……) 不安にかられながら、瞬は小さな声で氷河に告げた。 「……前より好きだよ。ずっとずっと好きだよ」 「ならいい」 氷河が簡単に頷いてみせる。 こんなに簡単に許されてしまう自分が、瞬は恐かった。 決してそんなことがあるはずがないのに、自分は氷河の仕掛けた罠にかかってしまっているのではないかという錯覚さえ覚える。 こんなことを繰り返しているうちに、氷河から離れられなくなり、氷河なしでは生きていられない自分に作り変えられているような──そんなふうな錯覚。 おそらく、それは、恋をしている者の抱く当然の不安で、愛されている者の贅沢な恐怖なのだと思うことで、瞬はその不安と恐怖を振り払おうとした。 |