自分の信じていたものを根底から覆されて心弱くなった瞬を、ハーデスは、以前よりも大きな割合で支配するようになった。 だが、彼は、瞬をすぐに完全に己れの意思と同化させてしまうことはしなかった。 そうしようと思えば彼は、弱っている瞬の心の隙をついて、瞬を完全に我が物とすることができていただろう。 しかし、彼はそうしなかったのである。 これほど簡単に彼の罠にはまってしまった二人の人間に、ハーデスはいたく興味を引かれたらしい。 そしてハーデスは、氷河の身体を使って瞬を愛撫する遊戯に興が湧いたらしく――あろうことか彼は、氷河の肉体と瞬の肉体を交互に支配して、刺し殺す快楽と絞め殺す快楽の両方を楽しみ始めたのである。 そなたを そなたの内から支配することも楽しいが、そなたを外側から支配することも楽しい――と、彼は氷河の声と唇で、睦言のように瞬に耳打ちした。 もはやハーデスへの抵抗心を失ってしまった瞬を、ハーデスが、氷河の身体を使って玩弄し続ける。 そして瞬は、氷河の姿をしたハーデスの愛撫に為されるがままだった。 「愛するものを愛撫するには、愛するものと別の存在でいなければならないということか。面倒なものだな、人間は」 羊毛の敷き布の床にうつ伏せに横たわる瞬の背を撫でて、氷河の顔と声を持ったハーデスが、興味深げに、そして不思議そうに呟く。 瞬が知っている通りの氷河の手と指の感触。 どうせ氷河でないのなら、氷河とは違うように触れてくれればいいのにと、身じろぎすることも不可能なほど犯され疲れ果てた身体の中で、瞬は思った。 氷河の金色の髪が徐々に影の色を帯びてきているような気がする。 それを錯覚だと、瞬は必死に思い込もうとした。 ハーデスは、氷河の中には不純物が多く、支配しにくいと言っていた。 彼が氷河を完全に支配することは無理なのだろう。 その上、自分にとって価値と必要があると認めたものへの氷河の執着と意思力は尋常のものではない。 それは、瞬もよく知っていた。 氷河は生きている。 氷河はまだ氷河のままで存在していると、瞬は懸命に自分自身に言い聞かせた。 |