闘いのあとには いつも、悔いと安堵の入り混じった思いに囚われる。
自分たちは“敵”と呼ばれるものを倒したのではなく、平和を守り抜くことをしたのだと、瞬は、他の誰でもない自分の仲間たちのために思った。
そして、今度もまた何とか生き延びることができた自分たちのために、ほっと吐息する。

アテナの聖闘士たちが守り抜いた地上には、夜のとばりがおりていた。
死の国のような夜の静寂が、人の世が平穏であることと、その平穏が一時的なものだということを、瞬に教えてくれる。
この穏やかな静けさが過ぎれば、地上には再び太陽が昇り、世界はまた めまぐるしく動き出すのだ。

闘いの始まりの時には躊躇を覚えることはないが――覚えていられないが――、一つの闘いが終わるたび、瞬は、自分たちの戦いはいつまで続くのかと考え、気弱になる。
それが終わらなければ、アテナの聖闘士たちは一生を闘いの中で過ごさなければならないのだ。
闘う意思はあったが、いつまで自分はこの状況に耐えることができるのかという瞬の不安は 消えることがなかった。
一人ではないから耐えられるのだ、と思う。
氷河が瞬の部屋のドアをノックしたのは、瞬がちょうどそう思った時だったので、瞬は仲間の来訪を嬉しく感じた。

「氷河、どうかしたの?」
「おまえの顔が見たくて」
それを、いつも 不器用なほどにぶっきらぼうな氷河が口にするような言葉ではないとは思ったのだが、瞬はそう言われたことを素直に喜んだ。
氷河の姿を見て、瞬自身が明るい気持ちになれたので。

「今回も無事に終わったね」
今こうして自分たちが無事でいるということは、人の世の存続が成ったということである。
そして、この静かな夜は、束の間とはいえ、アテナの聖闘士たちが命懸けの闘いを闘うことによって手に入れた静寂と平穏でできている。
それを二人で感じるために、氷河は仲間の許に来てくれたのだと瞬は思い、微笑みながら彼に椅子を勧めた。
その椅子に見向きもせずに、氷河が瞬の前に立つ。
「氷河?」
名を呼んだ時にはもう、瞬は彼に抱きすくめられていた。






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