翌日、ふいの出来事だった。
 アテナの悲鳴で僕達はアテナの元へと行った。聖闘士でなくなった僕が何の役に立つと言うのだろう。それでも、体は動いていた。
 皆はあっという間にクロスを身に付け敵と戦っていた。
「瞬はアテナを連れて安全なところへ!」
 氷河が叫ぶ。
 だけど、僕は動くことが出来なかった。
 アテナが僕の手をとる。
「行きましょう。ここは彼らに任せましょう」
「…でも…」
 僕はいいようもない不安が体を隅々まで支配していた。
「瞬! 早く!」
 アテナが側で怒鳴る声がした。けれど、それは、どこか遠くから聞こえているような気がした。
 目の前で聖矢、紫龍、そして氷河が命がけで戦っている。これくらいのレベルの敵なら三人がかりなら余裕だろう。
 でも、でも僕は……!
「僕は、好きな人を守りたい。ただ、それだけのために闘いたい。世界の平和とか、アテナを守る聖闘士とかそういうのじゃなくて、僕は僕自身のために愛する人を守りたい」
 小さいけれど確かに僕は決意を込めた声を発していた。
 氷河がそれほど弱い人間だとは思ってはいない。ただ黙ってみているなんてできない。守られるだけの存在でいるだけなんてできない。
 想いが強くなるほど僕の体の中にコスモが溢れ出していた。コスモが戻ったのだ。そして、以前にも増してコスモが強くなっている気がした。
 僕は三人の前にクロスをまとって姿をあらわした。三人も、もちろんアテナも驚いていた。
 僕の中に迷いはなかった。人を傷つけることに対しての抵抗は薄れることはないけれど、でも、躊躇している間に大切な人を失うことだけは絶対にしたくない。






END







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