ぼくの好きなもの



 夜になると氷河と二人で過ごすのが、習慣になっている。
 二人でかき氷を食べるのが楽しい。
 一緒にいるのも。
 気持ちが落ち着いて、幸せな気分になれるから。
「ねぇ氷河。氷河は、かき氷好きだよね。他に何が好き?」
「……」
「チョコレートに紅茶、ミルクをいっぱい入れたもの。それから?」
「……」
「甘い匂い。氷河のつけている香水の匂いって甘いよね。甘い匂い好き?」
「ああ」
「氷河って子供みたいだね」
 優しく微笑み瞬は氷河の瞳を見る。
 アイス・ブルーの瞳がきれいだ。
 でも少し寂しそうな気がする。
 瞳の奥…深く沈んだ藍。人を拒絶するような冷たさがある。
 いつからぼくは、彼を好きになったのだろう。
 こんなに傍にいるのが幸せだと思うようになったのか。
「……膝枕」
 突然、氷河が呟いた。
「膝枕? してほしいの」
「違う。俺の好きなものだ…俺は瞬の膝枕が好きだ」
「うん」
 にっこりと笑う瞬。 
 氷河の表情は変わらない。
「本当に氷河は子供みたいだね。可愛いよ」
「……子供か。だが、子供にはこんなことは出来ない」 
 そう言って瞬の体を抱きしめる。
 柔らかな髪が頬に触れる、甘い香りが瞬を包んだ。
「大好きだよ氷河」
「………」
「ぼくの好きなものはね、沢山あるけど、一番は…君と……氷河と一緒にいられるこの時間だよ。とても幸せを感じてるこの時…大好きだよ、氷河」
「……」
 氷河の手が瞬の髪に触れる。
 前髪をかきあげ額にくちづけた。
 次は瞼…頬…瞬は瞳を閉じ、じっとしている。
 唇に氷河のそれがそっと触れた。
 一度唇を離し、再びくちづける。
 今度は深く。想いの全てを注ぎ込むかのようなくちづけ。
「大好き氷河」
 唇が離れると幸せそうに微笑み瞬は言った。
「………」


 自分に微笑む瞬を見ながら、氷河は思う。
 瞬は俺がどれだけ想っているか知っているのだろうか。
 離れたくない、離したくないと思っているのは俺の方だということを。
 そして―――俺にとっても瞬が一番好きなものであるということを。
 俺の好きなものそれは『瞬』。





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