自転車の後に乗るのは久しぶりだ。
 ほとんど使っていない青い自転車。
 風で氷河の髪がなびく…さらさらの髪。きれい。
 途中でマクドに寄って、ハンバーガーとポテトを買った。
 氷河の腰につかまっているのも気持ちがいい。
 着やせするのか、見た目よりもしっかりとした体をしている。
 引き締まった胴…筋肉質の体。
 こうしているとちょっとドキドキする。
 心臓の音が氷河に聞こえはしないだろうか?


 海までだいぶ距離があるのに、氷河は平気そうだ。
 もともと体力はあるからだろうけど、文句一つ言わないで自転車をこぎ続けている。
 秋とはいえ、残暑が厳しい。
 暑さの苦手な氷河には辛いことじゃないのかな?
 背が少し汗ばんでいる。
 こうしているのは気持ちいい。
 ぼくの体で氷河を感じることができるから。
 海が見えてきた。
 風が吹く、少しだけ冷たい風…自転車を止め、砂浜におりる。
「お疲れさま」
 うんと氷河は言うだけで、何も言わない。
 もともと無口な人だから仕方ないか。
「ねぇ座ろうか」
「ああ」
 二人で、砂の上に腰をおろす。
 日も翳ってきているので、それほど熱くはない。
「食べる?」
 ぼくが、マクドの袋を出すと氷河はそれを黙って受け取った。
 暫く無言のままハンバーガーを食べる。
 おいしい。
 大好きな人とこうして過ごせる。
 とても幸せだ。
「…どうして自転車に乗りたいなんて言った」
 ハンバーガーを食べ終わった氷河が口を開く。
「乗りたかったんだ。気持ちよさそうだったからね……氷河と一緒にいたい。それだけだよ」
「……」
「普通の恋人みたいに、過ごしたいの。氷河とはね」
 そう言って瞬は意味ありげに笑った。
「ポテト食べる?」
 ポテトをつまみ氷河の口に持っていく。
「おいしい?ぼくにもして」
「………」
 氷河の指がポテトをつまむ。とてもセクシーな指だ。
 ごつごつしてるわけじゃないのに、けっこうしっかりしてる。
 骨が太いのかな…なんか、ドキドキしてきた。
「瞬。誕生日おめでとう」
 いきなり氷河が言った。
「ありがとう。ねぇキスして」
「キスだけでいいのか?」
「キスだけでいいよ。今は、まだ、ね」
 にっこりと笑い瞬は瞳を閉じる。
「今は…か」
「そうだよ。今は、ね」
 唇が重なった。
 風が髪を揺らす…さらさらとかかる髪が気持ちいいと瞬は思う。
「大好き氷河」
「……俺は」
 耳にくちづけ氷河は続ける。
「言葉では言えないくらい、お前を想っている」
 瞬の顔が少し赤くなる。
「帰ろうか」
「ああ」
 再び氷河の自転車に乗って、家に向かった。
 家の前でおろしてもらう。
 もうすっかり夜になってしまった。
「ありがとう楽しかった」
 氷河は頷くだけ。
「ねぇ、お願いがあるの。…ううんプレゼントしてほしいものがあるの」
「なんだ」
 瞬の視線が止めてある自転車に移る。
「それをぼくにくれない?」
「自転車がほしいのか?」
 瞬の考えていることがわからず、問い返す。
「そう。その自転車…・」
「いいぜ。新しいものを買ってやるのに…どうして」
「これじゃなきゃダメなんだ。…それでね、この自転車をぼくと君専用にしたいの」
 意味がわからず黙っている氷河を見、くすっと瞬は笑う。
「あのね……この自転車に乗せるのは、ぼくだけにしてほしいってことだよ。他の誰も乗せないでほしいの…ぼくだけの指定席に。ダメ?」
 悪戯っぽく瞬は笑い氷河の顔を覗き込む。
「…わかった。もともとお前以外乗せるつもりはない」
「ありがとう氷河。大好きだよ」
 瞬の唇が氷河の頬に当たる。
「おやすみなさい氷河」
「おやすみ」
 今度は氷河からのくちづけ。
 自転車を置いていこうとする氷河を瞬はとめた。
「氷河が持っていて。それでまたどこかに遊びに行こうね」
 笑いながら、氷河を見送った瞬は幸せそうだ。